【2024/11/19再訂正 m(_ _)m 】消費税法上、投資事業有限責任組合の持分の「譲渡」の扱い① 非課税取引?不課税取引?「償還」なら非課税取引?不課税取引?
問題の所在
金融商品の税制は難解であるが、特に、消費税絡みは、わかりにくい。
通常、有価証券の譲渡等は非課税取引とされているが、投資事業有限責任組合の持分の譲渡は、
- 「投資事業有限責任組合」といっても、形態としては、匿名組合、投資信託、投資法人、私募ファンド、ブリッジスキームと様々ある。
- 例えば社債について、「償還」は、譲渡(=売却)とは異なる。
点で、迷ってしまう。
結論
【2024/11/19】
・投資事業有限責任組合の償還は、出資の払い戻し等と同じ扱いであり、不課税取引。
・投資事業有限責任組合の償還も、有価証券の譲渡等と同じ扱いであり、非課税取引。
理由
投資事業有限責任組合には、法人格がない。個人でも法人でもない。
人格のない社団でもない(cf 人格のない社団とは、法人格は無くても団体としての性格を有する)。
匿名組合でもない(cf 匿名組合と任意組合(民法上の組合)との主な相違点を整理すると次のようになる)。
相違点 | 任意組合 | 匿名組合 |
---|---|---|
① 事業の性格 | 共同事業 | 営業者の単独事業 |
② 対外的権利義務 | 原則、各組合員が有する。 | 匿名組合員は、有しない。 |
③ 契約の性格 | 組合員相互の契約 | 営業者と組合員の契約 |
④ 組合財産の性格 | 組合員の共同所有 | 営業者の所有 |
投資事業有限責任組合とは、民法上の組合の特例で、各当事者(組合員)が出資をして、共同で一定の事業(株式等への投資事業他)を営むことを約する契約をいう(投資事業有限責任組合に関する法律3)。
つまり、任意組合でもなく、匿名組合でもなく、一定の比較的大規模な事業を営むことが可能で、にもかかわらず有限責任のメリットを享受する、いわば、「いいとこ取り」の制度である。
そして、投資事業有限責任組合では、組合員の出資、その他の組合財産は、総組合員の共有に属する(同法16)。
つまり、その事業で共有する資産のみならず、その持分も、投資事業有限責任組合自身は持たない。つまり、組合員の側からは譲渡だの償還だのと言うが、投資事業有限責任組合の側からは譲渡だの償還だの取引はそもそも想定されない取引ということになる。
実務上も、形式的には償還であっても、それが当の投資事業有限責任組合に帰属しない以上、その償還の実態は、他の組合員が譲り受ける、つまり譲渡と実態は変わらないであろう。
(私見であるが、財務省的には、このような曖昧な、いいとこ取りの組織体など認めたくないであろうが、平成15年前後に、経済産業省が作ってしまった組織体であり、法的には ぬえ のような存在であり、課税主体となりえない。)
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【2024/11/19追記】だがしかし、実務上、以下のケースがあるので、消費税上の扱いを決めておく必要があるのでしょう:
例1)
LPSは通常、5年間等の有期契約であり、エンドが来たら有限責任組合員へ各々の出資金を返還する。
例2)
LPSは通常、5年間等の有期契約であるが、実務上、延長することも少なくない。その場合、有限責任組合員の中に当初のエンドで出資を引き揚げたいという方が生じたら、無限責任組合員は、他の有限責任組合員の方でこの分を追加引き受けしていいという人を探し、いたら、当事者間で譲渡させるであろう。
例3)
ブリッジファンド(=あらかじめ出口戦略を用意しておく。入口と出口を結ぶ=ブリッジする)で、「出口でREATが買い上げる」というストーリの場合には、上の例1)と同様になろう。
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例2)が償還(=出資の払い戻し)であろう。こちらは消費税の4要件から判断し、不課税であろう。
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例1)と例3)が譲渡であり、改めて、
金融商品取引法では、真正の有価証券は、第2条第1項で列挙し、それ以外のみなし有価証券は第2条第2項で規定しており、投資事業有限責任組合はその第2条第2号5号で明記されている。
五 民法(明治二十九年法律第八十九号)第六百六十七条第一項に規定する組合契約、商法(明治三十二年法律第四十八号)第五百三十五条に規定する匿名組合契約、投資事業有限責任組合契約に関する法律(平成十年法律第九十号)第三条第一項に規定する投資事業有限責任組合契約又は有限責任事業組合契約に関する法律(平成十七年法律第四十号)第三条第一項に規定する有限責任事業組合契約に基づく権利、社団法人の社員権その他の権利(外国の法令に基づくものを除く。)のうち、当該権利を有する者(以下この号において「出資者」という。)が出資又は拠出をした金銭(これに類するものとして政令で定めるものを含む。)を充てて行う事業(以下この号において「出資対象事業」という。)から生ずる収益の配当又は当該出資対象事業に係る財産の分配を受けることができる権利であつて、次のいずれにも該当しないもの(前項各号に掲げる有価証券に表示される権利及びこの項(この号を除く。)の規定により有価証券とみなされる権利を除く。)
この点に関し、消費税法では、消費税法施行令9条第1項の、有価証券等の譲渡で非課税取引および非課税取引に類する取引の例示(形式的には例示)の中で、譲渡等の金融商品取引法第2条第1項にあるものは消費税上もまとめて同じ扱いをしていいので引用している。
しかし、第2条第2項にあるものは、消費税上、扱いを場合分けする都合、まとめては引用せず、分けて規定している。
消費税法施行令9条1項(黒太字は引用者加筆):
(有価証券に類するものの範囲等)
第九条 法別表第二第二号に規定する有価証券に類するものとして政令で定めるものは、次に掲げるものとする。
一 金融商品取引法第二条第一項第一号から第十五号まで(定義)に掲げる有価証券及び同項第十七号に掲げる有価証券(同項第十六号に掲げる有価証券の性質を有するものを除く。)に表示されるべき権利(これらの有価証券が発行されていないものに限るものとし、電子決済手段(資金決済に関する法律(平成二十一年法律第五十九号)第二条第五項(定義)に規定する電子決済手段をいう。第四号及び第四項並びに第十一条において同じ。)に該当するものを除く。)
二 合名会社、合資会社又は合同会社の社員の持分、法人税法第二条第七号(定義)に規定する協同組合等の組合員又は会員の持分その他法人の出資者の持分
三 株主又は投資主(投資信託及び投資法人に関する法律(昭和二十六年法律第百九十八号)第二条第十六項(定義)に規定する投資主をいう。)となる権利、優先出資者(協同組織金融機関の優先出資に関する法律(平成五年法律第四十四号)第十三条第一項(優先出資者となる時期等)の優先出資者をいう。)となる権利、特定社員(資産の流動化に関する法律(平成十年法律第百五号)第二条第五項(定義)に規定する特定社員をいう。)又は優先出資社員(同法第二十六条(社員)に規定する優先出資社員をいう。)となる権利その他法人の出資者となる権利
四 貸付金、預金、売掛金その他の金銭債権(電子決済手段に該当するものを除く。)
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なお、「持分」と言わず「権利」といっているのは、上の金融商品取引法の規定を意識していると推察する。
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上のように区別したうえで、譲渡の場合、課税売上割合での有価証券の譲渡の扱いで、(匿名組合などとは異なり)通常と同じ5%相当額でいいと線を引いた、と考える。
LPS(=投資事業有限責任組合)を売却(=持分を譲渡)した場合、消費税の課税売上割合の計算上、5%だけ含める扱いになる理由は?
補足
以前の弊記述では、
> 二 合名会社、合資会社又は合同会社の社員の持分、法人税法第二条第七号(定義)に規定する協同組合等の組合員又は会員の持分その他法人の出資者の持分
の方に該当すると思っていたが、間違い m(_ _)m。
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