【2024/9/19「補足」変更】従業員への家賃補助・借り上げ社宅における、従業員への課税関係は?
問題の所在
以下の事例:
・転勤者には、従来、会社が借り上げ社宅を用意し、全額を会社が家賃負担 ★社員の本人負担はゼロ円 (*_*)(^^)
・社員へ住宅を提供する際の課税について仮に、
1)賃貸相当額の60%を個人徴収するケースと、
2)素直に所得として課税するケース、
を比較すると、意外と、「2)素直に所得として課税するケース」の方が本人の負担は軽いのではないか?(社会保険は抜きで考える)
結論
その通り。
理由
以下の国税庁の記事が参考になる:
No.2597 使用人に社宅や寮などを貸したとき
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/gensen/2597.htm
(抜粋は省略)
↓
世の中の小規模起業を含め、通常は、家賃補助はない前提から議論がスタートする。その進化の過程は、
①家賃補助ゼロ → ②家賃補助、少額 → ③家賃補助、多額、の順である。
ですので、「社員の得」も、収支と税負担を含め、
① → ② → ③ の順に、得になる。 ①>②>③、とも言えます。
仮に、家賃10万円とし、かつ、賃料相当額を2万円としますと、
①家賃を全額自己負担で、10万円の支出、
②補助が4万円なら、都合、6万円の支出 ★自己負担が半額以上なので給与所得加算はゼロ円、
③補助が6万円ならば、都合、4万円+{賃料相当額2万円×(所得税率仮に5%+住民税率10%)}=43,000円の実質支出、
と進化し、実際、①10万円>②6万円>③43,000円が成立しています。
今回の場合、上の進化が違っています。
①’家賃補助 多額どころか100% → ②家賃補助、少額 → ③家賃補助、多額、の順です。
↓
同じ、家賃10万円とし、かつ、賃料相当額を2万円としますと、
①’負担ゼロで、都合、0円+{賃料相当額2万円×(所得税率仮に5%+住民税率10%)}=3,000円の実質支出、
②補助が4万円なら、都合、6万円の支出 ★自己負担が半額以上なので給与所得加算はゼロ円、
③補助が6万円ならば、都合、4万円+{賃料相当額2万円×(所得税率仮に5%+住民税率10%)}=43,000円の実質支出、
です。
①’3,000円<②6万円>③43,000円、という感じです。
なので上の結論通りで正しいのですが、、、そもそも①’であり、①ではない、ので「微妙」です。
補足
なお、応用)(?)論点として、
「では会社として全額負担した際、すべて損金計上は可能でしょうか。※否認されることはないでしょうか?」
があり得る。
現時点では、抗弁する余地があると考えます:
これについては、参考記事は以下の①②:
① 従業員等が社宅を利用する場合|税務通信 No.3505 2018/05/07 9:00
https://www.zeiken.co.jp/news/12710135.php
(以下、一部抜粋)
従業員等が社宅を利用する場合に、適正な賃貸料を従業員等から回収していれば、給与課税等の課税関係が生じないことは分かりましたが、業務上の都合から社宅に居住している場合も、従業員等から適正な賃貸料を回収する必要がありますか。
回収する必要はありません。
所得税法では、第9条において、所得税を課さない非課税所得を列挙しており、その1項6号では、給与所得者が使用者から金銭以外の経済的な利益を受けた場合でも、非課税とされるものが記載されています。
(非課税所得) 第九条 次に掲げる所得については、所得税を課さない。 (略) 六 給与所得を有する者がその使用者から受ける金銭以外の物(経済的な利益を含む。)でその職務の性質上欠くことのできないものとして政令で定めるもの |
この6号を受けた所得税法施行令第21条では、職務の遂行上の必要性から社宅に居住している場合の経済的利益を非課税としています。
第二十一条 法第九条第一項第六号(非課税所得)に規定する政令で定めるものは、次に掲げるものとする。 (略) 四 国家公務員宿舎法(昭和二十四年法律第百十七号)第十二条(無料宿舎)の規定により無料で宿舎の貸与を受けることによる利益その他給与所得を有する者でその職務の遂行上やむを得ない必要に基づき使用者から指定された場所に居住すべきものがその指定する場所に居住するために家屋の貸与を受けることによる利益 |
工場の勤務体系を維持するために、工場近くの社宅に従業員を住まわせているようなケースが典型例かと思いますが、通達では、以下のように、他の例も掲載されています。
9-9(職務の遂行上やむを得ない必要に基づき資与を受ける家屋等) 令第21条第4号に規定する「職務の遂行上やむを得ない必要に基づき使用者から指定された場所に居住すべきものがその指定する場所に居住するため」に貸与を受ける家屋には、次に掲げるようなものが該当する。 (1)船舶乗組員に対し提供した船室 (2)常時交替制により昼夜作業を継続する事業場において、その作業に従事するため常時早朝又は深夜に出退勤をする使用人に対し、その作業に従事させる必要上提供した家屋又は部屋 (3)通常の勤務時間外においても勤務を要することを常例とする看護師、守衛等その職務の遂行上勤務場所を離れて居住することが困難な使用人に対し、その職務に従事させる必要上提供した家屋又は部屋 (4)次に掲げる家屋又は部屋 イ 早朝又は深夜に勤務することを常例とするホテル、旅館、牛乳販売店等の住み込みの使用人に対し提供した部屋 ロ 季節的労働に従事する期間その勤務場所に住み込む使用人に対し提供した部屋 ハ 鉱山の掘採場(これに隣接して設置されている選鉱場、製錬場その他の附属設備を含む。)に勤務する使用人に対し提供した家屋又は部屋 ニ 工場寄宿舎その他の寄宿舎で事業所等の構内又はこれに隣接する場所に設置されているものの部屋 |
(解説者:税理士 村木 慎吾)
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② 遠い工事現場への長期出張時の社宅費用も給与課税されるの?
(以下、一部抜粋)
天引きすると、社員の手取りが減ってしまう
社宅費用を給与天引きすると、当然手取りは減ることになります。従業員にとっては会社の都合で転居することになったのに、結果手取りが減るのであれば不満に感じることでしょう。
その場合には、赴任手当・転勤手当等の手当を支給することで解消することが多いです額面金額を増やすことで、給与課税された分を補填し、実際の手取り額を減らすことなく支給することができるからです。
ただし会社としては、実質費用負担が増えることになります(社会保険料も増えます)。いわゆる会社命令による転勤であっても、社宅についての課税はないという取り決めは税法にはないので注意したいところです。これについては、釈然としないところですが、家族が住む自宅はあるまま単身赴任するケースであっても、上記所得税法基本通達9-9の解釈では、交替勤務の職場でもない限りは、会社近所の社宅に住むのと、税務的には同じ扱いとなります。
良かれと思って従業員にしてあげたことが不利益にならないように、あらかじめ社宅費用についての規定や、採用時の雇用条件通知書には転勤が有る旨は記しておきたいところです。
転勤と、長期出張の違い
ただし、これは転勤の場合であって、長期出張と解する場合はどうなるのだという疑問は湧きます。出張であれば現地の宿泊費も当然、非課税となり所得税も課されません。出張日当を払っても同様に課税を受けません(規程の用意と手当の額の妥当性の検証は必要です。いくらでもOKというわけではありませんのでご注意を)
転勤と長期出張は何が違う?ですが、法律には定義はありません。ただ、外形的に言えることは転勤は組織としての所属場所が異なるので、直属の上司や、工事が終了した後の勤務場所は変更となります。通常は期間を限定しない、転勤辞令が発行されます。これに対して長期出張は、直属の上司が変わるわけではなく、工事終了後も戻る勤務場所は工事開始前と同じです。そして工事期間も決まっていることでしょう。
ここからは、弊社の私見となりますが、出張に短期・長期の違いは税法でも明確にされていません。●日目から長期出張になるという明記はありません。
そのため、あくまで出張ということであれば宿泊実費(ホテル代)を下回る居所(マンスリーマンション)の賃借費用を選ぶことは、会社として経済合理性のある行為(同じ効果ならコストの低い方を選択する)なので、全額を会社の単純経費として、工事現場に長期出張する社員からは一切天引きしなくとも、税務上の問題は起きにくいと思われます。現場への往復旅費を考えれば、その経済合理性は尚更です。
一定の出張日当を支払うことで、実質的に現地での食事代・洗濯代等の日常生活費補填を行うことも可能でしょう。ただし、あくまで出張ですので、賃借した居所は誰でも使用できる前提(理屈上、他の社員が使用するのもOKであるはず)は必要です。出張地であり住居地ではないからであり、これは転勤との大きな違いになると思います。宿泊実費よりも賃借料の方が安いという見積試算書も社内で用意しておくと税務調査において、経済合理性を裏付ける説得力が保てます。
また、税務的に問題となることを絶対に避けたいのであれば、出張手当×出張日数>税務上、天引きが求められる社宅費用 であれば、社員の持ち出しは起きないので、このロジックで考えるのも一つでしょう。大事なことは長期出張で現場に張り付く社員の手取りが減らず、問題が起きにくい運用を考えることです。この場合、出張手当のルールである出張旅費規程の整備が重要になります。
もしくは、現実的に選択する会社はないでしょうが、出張手当×出張日数 を支払って、住居は社員に自由に個人契約してもらうというのも一つです。
なお、この給与課税の問題は、社員本人への課税ではあるのですが、実際の税務調査では、源泉徴収義務者である会社へ支払いが求められます。税務署が本人に直接通知や支払いを求めることはありません。
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