S様用)個人事業主で、火災消失した借り物の店舗の復旧工事の支出は、自身の事業所得で修繕費a/cで計上可能?
問題の所在
以下の事例:
・従来、母が社長か役員をしている会社で、飲食店と建設業の2つを経営していたのを、
・本人が4年前に飲食店の経営を引き継ぎ、飲食店の事業所得を申告してきた。
・引き継ぎ時に、店舗資産は、個人事業主に移さず、会社側の帳簿上にあるまま。
・また、店舗の資産に対する賃借料は支払っていない。
・今年、店舗で火災が生じ、店舗の復旧工事の支出を本人がした。
・なお、当該復旧工事の内容は、経年劣化の原状回復であり(付加価値をつけたわけではなく)修繕費a/cで相当である。
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自身の資産でないものの復旧工事の支払いは、事業関連性がないのなら、経費にならないのでは?
結論
自身の事業所得の経費に計上可能と判断する。
理由
まず、資産を借りて、利用料を支払わないで営業すること自体は、民法でいう使用貸借という概念で、実態上は問題ない。
(要は、借り賃を支払わない代わりに、今回でいうと、母が「返して」と言ったら無条件で返す、という前提があるため。)
(当初に、使用貸借契約書を固めておけば完璧だが (^^))
使用貸借の場合、通常の維持管理費は今回でいうと本人の側で負担するでOKだが、
では、今回のような復旧工事費のような多額の損害も「負担していい」のか?であるが、以下の記事が参考になる:
使用貸借とは?不動産の事例や賃貸借との違い、注意点について解説
(以下、一部抜粋)
3-3.原状回復義務
2020年(令和4年)4月施行の改正民法では、使用貸借における原状回復義務が明文化されました。これに伴い、借主がモノを受け取ったあとに何らかの損傷が生じた場合は、原状回復してから貸主へ返還しなければならなくなりました。
ただし、借主に帰責性(責められる理由や落ち度)が認められない場合は、原状回復の対象外となります。
借主は、借用物を受け取った後にこれに生じた損傷がある場合において、使用貸借が終了したときは、その損傷を原状に復する義務を負う。ただし、その損傷が借主の責めに帰することができない事由によるものであるときは、この限りでない。
また、通常の使用・収益に伴って生じた損耗や経年劣化については、改正民法でも明文化されていません。そのため、借主・貸主のどちらが負担すべきかという点は、契約内容や個々の解釈によって決定されます。
賃貸借も同じく、借主は原状回復義務を負います。賃貸物件から退去する際は、入居時の状態に戻してから返還しなければなりません。
しかし、賃貸借の通常損耗や経年劣化に関しては、その分を考慮した対価が賃料に最初から含まれていると判断されるため、原状回復の対象外と規定されています。
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使用貸借は、法的にはやや不安定なもの、例外的なものなので、原則としては、貸主の側に権利と義務が強めにバイアスがかかると考える。
通常、争いになるのは、借主が復旧工事代を「支払いたくない」。なので、上の民法の条文でも但し書きで、
>ただし、その損傷が借主の責めに帰することができない事由によるものであるときは、この限りでない。
と定めている。
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この事例では、前提が逆で、本人が復旧工事代を「支払いたい」。
他方、税理士的には、税務署の立場上、「本人が負担する義務がないのに支払っている」と主張される可能性はありえますが、
ならば、上の但し書きの、「私の管理が不十分だったせいですーーー」と主張(!)すれば、抗弁できる可能性は小さくないと考えます。
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補足
当初の使用貸借契約書を整備しましょう (^^)
また、母の会社の帳簿上、飲食店の設備の未償却残高が残っていたら、除却損等の科目で落としてもらうことになる。
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