T様用)被相続人の父の遺産分割が未分割なまま母の相続を控えている状況で、両者の遺産分割を1回で済ませる根拠は?
問題の所在
以下の事例で、最初に何をすべきかの整理した:
<経緯>
・相続人は母(父は20年以上前に他界)、被相続人は兄と妹
・父の逝去時に、本来、相続をすべきであったが、兄いわく、当時、母が創価学会に取り込まれかえており、遺産相続をしたら財産を学会に寄進してしまうリスクがある(以下「学会リスク」という)と考え、遺産分割はせず、それで今日に至る。
・父は元自衛官であり、その財産は、負債はなし。資産は練馬区の一軒家の土地建物と若干の預貯金のみ。
・固定資産税は、最初に東京都から未払の連絡があり、兄が代理で支払うことで手打ちになり、以後、毎年、兄が納付している。
・兄は夫(自身)、妻、長女の3名。
・兄は自分で一軒家を購入し、父の逝去後もしばらくそこに住んでいたが、母の老化に伴い、それを売却し、一家で実家に引越し、母と同居して今日に至る。
★なお妻は母と折り合いが悪く一切の世話をせず今日に至る。
・妹の家族は、夫、妻(自身)、長男長女で、再婚の連れ子で、二人共海外で家庭をもっている(アメリカとフランス)
・妹夫婦は、夫の定年後は、逗子の分譲マンションに居住し今日に至る。
・妹の夫は膵臓がんで余命1年前後。
・令和5年に、高齢の母が自宅近くの老人ホームに入居。
・令和6年時点で、母に係る学会リスクも低減している。
<アクション案>
以上から、以下の案を兄が発案し、妹も賛成している。
・兄は、母の逝去後に、まず自宅を売却し、売却金額をA円とすると、これまで父母に資金援助した分を約3千万円と見積もり、(A円ー3千万円)を法定相続割合の1:1で按分する。
・妹は、夫の死後に、所有する逗子のマンションを時価評価し、被相続人で法定相続割合で按分し、算出された金額で、兄が買い取り、一家で底に住む。(妹一家は代償分割する形になる)
・妹は、母の相続財産と夫の相続財産とでまとまった金になるので、それで都内の老人ホームに入居する。
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・いわゆる配偶者控除(1億6千万円と◯の比較)は、法定申告期限内に遺産分割が成立していることが条件。期限後の申告の場合には適用できない)
・当時は旧相続税法の下、5千万円+3人×500万円=6,500万円の控除枠があった。
・父の相続財産(=練馬区の一軒家+若干の預貯金)はさすがに6,500万円より高いので時効がない場合には、納税が生じる可能性が高かった。
・しかし、相続税の時効は以下の記事のとおり最長でも7年のため、逃げ切っている:
↓
論点は、父の遺産分割を、以下の①②のいずれを選択すべきか?
①父の遺産分割をいま母が存命中に実行し、母が死亡後に兄と妹で相続する
・土地建物の相続税評価額は、、、時効なので深刻視しないので、関係ない。
・例えば令和6年9月に作成する遺産分割協議書上では、一応、法定相続割合で相続人の地位を承継するが、次の申告を考え(∵相続財産を減らすため)、改めて母と兄と妹で法定相続割合で按分し、登記する。
・例えば令和7年9月に母が死亡しその相続のときには、相続税の申告上は、令和7年9月時点の相続税評価額で計算する。
②父の遺産分割は未分割のままスルーし、母が死亡後に、いわゆる数次相続で兄と妹が相続する
・土地建物の相続税評価額は、、、3名の相続人のうち、申告・納税義務のある母がその申告・納税をしないで亡くなった場合には、相続税法上、その相続人つまり兄と妹が申告・納税義務を承継することとされています。
結論
「②父の遺産分割は未分割のままスルーし、母が死亡後に、いわゆる数次相続で兄と妹が相続する」方を選択する。
★別途、司法書士にも照会し、以上でOKの旨の回答を得た。
理由
ググったら、レッドゾーンである相続であるためか、数次相続がキーワードでこれでもか、と記事がヒットしたが、
1)まず、数次相続で父と母の間が相応にある事例を解説した以下の記事が参考になる:
第10回 税理士による相続の事例(2)遺産分割未了のまま、二次相続が発生した場合
(以下、引用者略)
私の母は今年5月10日に死亡しました。母の財産は預金が300万円あるだけで、他に財産はありません。相続人は私と弟だけで、弟は母と同居していました。父は5年前に死亡しましたが、5年前は相続税の改正前で基礎控除以下の財産なので、相続税申告はしませんでした。
今回、母が死亡して、父の死亡後、登記を父から変更していないことに気が付きました。父の名前のままになっているのは、父と母、弟が住んでいた自宅の土地、建物です。
この登記を変えていないことは、母の相続にどう影響がありますか?
A
お父さんが亡くなった5年前は、基礎控除以下の財産のため相続税申告はしておらず、相続登記もしていなかったので、お父さんの財産については、相続人であるお母さん、あなた、弟さんで遺産分割協議がなされていない未分割状態にあるということになります。
回答
相続登記のためには遺産分割協議の成立が必須です。
遺産分割協議を行うべき方が遺産分割協議成立前に死亡した場合は、その亡くなった方の法定相続人がその地位を引き継ぐことになります。
今回、遺産分割協議成立前にお母さんが死亡したことにより、お母さんの法定相続人であるあなたと弟さんがその地位を引き継ぐことになります。
お母さんの相続人であるあなたと弟さんがお母さんの代わりに分割協議を行うことになり、結果として兄弟2人で分割協議を行うことになります。
つまり、お父さんの自宅の土地、建物を含む全遺産については、兄弟2人で遺産分割協議すればよいのです。その分割協議成立での相続分が、兄弟でそれぞれ1/2や4:6又は単独でもお父さんの相続税の申告は不要で、お父さんの名前のままとなっている自宅の土地と建物を分割協議成立の相続分で相続登記をすればよいこととなります。これは、5年前には基礎控除以下の財産により相続税が発生しなかったことを前提にしたものです。
もし、お父さんの遺産を前述のように兄弟2人が相続する内容の遺産分割協議が成立した場合は、お母さんの遺産(預金300万円)についてのみ遺産分割協議が必要となります。
また、お母さんの遺産が預金300万円のみであれば基礎控除(3,000万+600万x2人=4,200万)以下ですから、お母さんの相続税の申告は不要となります。
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補足
数次相続を、1回の遺産分割協議で済ます方法も、ググるとたくさんヒットするが、以下の記事を引用:
父と母が順に死亡した場合の相続登記
https://www.souzoku-mado.jp/zirei4
(以下、一部抜粋)
本事例の問題点は、この3つです。
①父→母が順に死亡したことで2回の相続が発生している。
②死亡した母は遺産分割協議に参加することが不可能。
③登記をダイレクトに父から長男に変更することはできないか。
こういったケースの場合、当事務所ではお父様の相続とお母様の相続をまとめて遺産分割してしまう方法を使います。
具体的には、一通の遺産分割協議書の中にお父様とお母様の相続を記載し、まとめて遺産分割する方法を使いました。この方法を使えば、いま現在亡くなった父親名義の登記を直接長男に変更することが可能です。直接名義を変えられるということは登録免許税の節約にもなり手間もかかりませんから、ご相談者様としても当事務所としても有難い方法です。
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