給与の支給日が「当月末日締めの翌々月10日支払い」でも労基等の上では問題ない根拠は?
問題の所在
顧問先様のうちの1社で、給与の支給日が「当月末日締めの翌々月10日支払い」のところがある。
給与支払報告書(総括表)の、「給与の支払方法及びその期日」欄に、上のように記載しようとし、ふと、これって労基違反じゃないか?と心配になり、ググった際の備忘メモ。
結論
問題ないよう。
理由
以下の記事①②nとおり:
まず、端的な方で以下:
https://detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/question_detail/q1141084726
(以下、一部抜粋)
給料が2ヶ月遅れで支払われるのは、違法? 例えば4月に働いた分の給料が、4月30日で締めて6月31日に支払われるのは違法なんでしょうか。 労働基準法第24条2項にあります、『賃金は、毎月1回以上、一定の期日を定めて支払わなければならない。・・・』の”毎月1回以上”という部分について、毎月毎月2ヶ月遅れで支払われるなら”毎月1回以上”は満たしていると思うのですが、これはだめなんでしょうか。
一定の期日を定めて支払わなければならないの通り、 月末締め、翌々月末払いと一定の期日を決めて支払われているので 違法では有りません。 支払い期間も従業員への最長猶予は2ヶ月のはずなので 問題有りません。
➁ 詳細には以下:
【違法?】給与の支払日、月末締め3か月後払いでも労働基準法違反にはならない!?【合法?】
(以下、一部抜粋。画像は抜粋の趣旨から引用者削除)
賃金に関する法律と言えば、支払う賃金の最低額を定める最低賃金法に並び、賃金の支払い方法を定める労働基準法がまず頭に浮かぶと思います。
今回は支払日が問題ですので、労働基準法に規定のある、賃金の支払い方法に関する「賃金支払いの5原則」について考えてみたいと思います。
①賃金支払いの5原則
賃金の支払い方法に関しては労働基準法第24条に規定がございます。
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第二十四条
賃金は、通貨で、直接労働者に、その全額を支払わなければならない。ただし、法令若しくは労働協約に別段の定めがある場合又は厚生労働省令で定める賃金について確実な支払の方法で厚生労働省令で定めるものによる場合においては、通貨以外のもので支払い、また、法令に別段の定めがある場合又は当該事業場の労働者の過半数で組織する労働組合があるときはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がないときは労働者の過半数を代表する者との書面による協定がある場合においては、賃金の一部を控除して支払うことができる。
○2 賃金は、毎月一回以上、一定の期日を定めて支払わなければならない。ただし、臨時に支払われる賃金、賞与その他これに準ずるもの で厚生労働省令で定める賃金(第八十九条において「臨時の賃金等 」という。)については、この限りでない。
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長い条文ですが、ポイントをまとめると以下のようになります。
①通貨払いの原則
賃金は必ず通貨で支払わなければなりません。
②直接払いの原則
賃金は必ず直接労働者に支払わなければなりません。
③全額払いの原則
賃金は必ずその全額を支払わなければなりません。
④毎月払いの原則
賃金は必ず最低でもひと月に1回は支払わなければなりません。
⑤一定期日払いの原則
賃金は必ず定期的に支払わなければなりません。
以上5つをまとめて賃金支払いの諸原則、あるいは賃金支払いの5原則と呼びます。
この5原則の中で本件において争点となりそうなのは、④と⑤ですね。
この2つには「月末締め3か月後払いを不法」とするような意味は含まれているのでしょうか。
②「毎月」払っていれば3か月後払も許される?
毎月払いの原則とは、毎月1回以上は賃金を支払わなければならないというもの。
毎月とは、暦日で毎月1日から月末までの間に少なくとも1回以上払わなければならないということです。
ですので、年俸制の場合も分割して毎月支払う必要があります。
法定の例外は以下の通りとなります。
①臨時に支払われる賃金(退職金、私傷病見舞金等)
②賞与
③厚生労働省で定める賃金=1カ月を超える期間の出勤成績等により支給される精勤手当、勤続手当、奨励加給、能率手当等
では、この条文は月末締め3か月後払いを禁止していると解釈できるでしょうか。
ポイントは、当条文は給料の支払期限を定めたものではないということ。
確かに入社時は先3か月給料が支払われないという状況にはなりますが、その後毎月1回以上の給料日が設定されていれば、当条文を根拠に違法とすることは難しいでしょう。
では、一定期日払いの原則はどうでしょうか。
③「定期的」であれば3か月後払も許される?
賃金は、毎月一定期日に支払わなければなりません。
一定期日とは、必ずしも特定の日づけを指定しなくても良く、月給の場合に月の末日、週給の場合に週の末日としても問題ありません。
極端な例を挙げれば、「毎月30日支払」と定めてしまうと毎年2月は給料日が訪れませんよね。
ですので「末日」などと幅を持たせることが可能となるのです。
ただし、「毎月最終週の1週間の間」や「毎月第4金曜日」のように範囲が広く「不特定」とみなされる期日の定めをすることは許されません。
当条文の例外は、先述の毎月払いの原則の例外と同様となります。
①臨時に支払われる賃金(退職金、私傷病見舞金等)
②賞与
③厚生労働省で定める賃金=1カ月を超える期間の出勤成績等により支給される精勤手当、勤続手当、奨励加給、能率手当等
では、この条文は月末締め3か月後払いを禁止していると解釈できるでしょうか。
結論から言えば特定された支払日が設定されていれば当条文を根拠に違法とすることは難しいでしょう。
どちらの条文も文言上は「給与の支払日が遅い」という状況を禁止するものではありません。
しかし、3か月という期間が不当に長いとみなされれば、民法の規定である公序良俗に違反すると考えられる場合があります。
2. 公序良俗違反?
公序良俗とはなんでしょうか。
公序良俗は民法第90条に規定がございます。
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第90条
公の秩序又は善良の風俗に反する事項を目的とする法律行為は、無効とする。
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当該条文の「公の秩序又は善良の風俗」を省略して公序良俗と言います。
私法に関しては私的自治の原則が採用されており、最低限度の決まりさえ守れば自由に契約の内容を決めることができます。
例えばその場で拾った石に100万円の値段を付けたとしても、相手がその売買契約に了承して購入したのであれば、法律上の問題はございません。(何かの化石かもしれませんね!)
私的自治の原則とはつまり、法律行為において個人の意思を尊重するということです。
しかし、何でも「個人の意思」に任せてしまうと不都合が生じる場合もございます。
民法が規定する「公序良俗に反する法律行為」とは、財産的あるいは倫理的、人権の損害などを生じる場合と考えられ、そのような契約を社会的に認めないという意味を持ちます。
例えば人身売買などはいくら当事者の同意があったとしても許されません。
その際には個人の意思の上の契約であっても、法律上の効果を生じ得ないということになります。
さて、給与の支払いを月末締め3か月後払いとすることは「公序良俗に反する」と言えるのでしょうか。
3. 早く欲しい従業員、待って欲しい会社
労働基準法や最低賃金法などに定めれられている賃金に関する規定の趣旨は、労働者の生活を安定させるというところにあります。
働いても賃金が支払われない、いつ支払われるかわからない、不当に安すぎるという状況では安定した生活を営むことができません。
先述の毎月払い、一定期日払いに関しても条文の文言通りであれば問題ないということはなく、不当に長い時間賃金を支払わなければ今度は民法の公序良俗の規定に違反してしまいます。
それでは「不当に長い期間」とはどのくらいなのでしょうか。
①給与計算という事情
従業員からすれば、働いたお金はすぐにでも欲しいもの。
しかし、会社としても給与支払に向けて計算期間が必要になります。
月給の場合、1か月分の勤怠や通勤費、諸手当等を確認し、その後社会保険や税金の控除に関して計算をします。
その後現金の準備や振り込みの手続き等を行うため、給与の支払い日は給与計算の締日のあと10日程度は日数を要すると考えられます。
従業員の人数が多ければ多いほど計算に時間を要しますし、使用しているシステムや人員に関しても会社によって様々な事情があるでしょう。
ですので、会社によって締日も支払日も異なるという状況はある程度仕方のないことです。
さて、計算期間を考慮したとしても3ヶ月という期間は「不当に長い」と言えるでしょうか。
②3か月0円生活はできない
結論から言えば、給与の支払日に関して具体的に「何か月先からは違法」という決まりはございませんので、何か月先を支払日と設定しても「不当に長い」と断言することはできません。
それこそ給与の支払日を就業規則に記載し、先に従業員に周知しているのであれば問題となるようなケースもあまりないでしょう。
しかし翌月払いならまだしも、「3か月後」というのはあまり一般的ではない期間ですよね。
働き始めて3か月も収入がなければ従業員は生活に困るでしょう。
ですのでこの場合は、それ相応の事情があるか、それ相当の保障がなければ「公序良俗に反する」と判断される可能性はかなり高いと考えられます。
因みに、給与の支払日に関して法律では明確な期限を決めていないですが、実際に会社と従業員の間で支払日に関して争った判例は驚くほどありません。
(もちろん、倒産して給与が支払えなくなったというような状況は除きます。)
これはどんな条件であっても従業員は泣き寝入りをするしかないというのではなく、適切と考えられる期間に会社は給与を支払っているということでしょう。
従業員が働けない会社は廃れていくのみ。
会社の事情、従業員の事情はそれぞれあるとは思いますが、会社の資源たるヒト・モノ・カネを大切にする運用をしていくことが求められますね。
4. おわりに
いかがでしょうか。
給与は法律に則って支払うものではありますが、会社独自の特色も出てしまうもの。
会社は労働者の生活を守ることを、従業員は会社の計算時間への理解を持ち、労使間での合意を欠かさないようにしていきましょう。
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補足
特記事項なし
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