「(相続人A、B、Cのうち)BとCの2人に1/2ずつ全財産を相続させる」旨の遺言があるが、申告期限までに、当該2名の間で遺産分割が未了の場合、申告は未分割の分割になるが、その際の課税価格の計算は法定相続割合ではなく遺言に指定されている相続分を基礎として計算する理由は?

問題の所在

別の記事(=「(相続人A、B、Cのうち)BとCの2人に50%ずつ財産を相続させる」旨の遺言があるが、申告期限までに、当該2名の間で遺産分割が未了の場合、申告は未分割の分割になる理由は?」の続きで、

その際の課税価格の計算は、直観的には、法定相続分と思ったが、、、、

 

結論

遺言に指定されている相続分の割合。

 

理由

「新版 未分割申告の実務」(清文社、税絵里氏法人トゥモローズ)、p21、22 参照

 

(以下、一部抜粋、また筆者追記)

相続又は包括遺贈により取得した財産に係る相続税について申告書を提出する場合等において、その取得した財産の全部又は一部が共同相続人又は包括受遺者によってまだ分割されていないときは、その分割されていない財産については、民法(第904条の2(寄与分)を除く)の規定による相続分又は包括遺贈の割合に従ってその財産を取得したものとして相続税の計算をします。(相続税法55条)

★相続(特に指定相続)
被相続人は、相続人間の相続分を自ら決めることができる((民法  親族・相続 第7版、松川正毅、有斐閣アルマ、p254)

★包括遺贈
目的を特定しないで2分の1とか3分の1という割合によってなす遺贈をいう(民法  親族・相続 第7版、松川正毅、有斐閣アルマ、p340)

★★上の2つの違いは以下の記事を参照:

相続(=指定相続)と遺贈の違いは?

★上の「民法(第904条の2(寄与分)を除く)の規定による相続分」とは、法定相続割合ではない!
・民法第900条(法定相続分)
・民法第901条(代襲相続分)
民法第902条(遺言による指定相続分)
・民法第903条(特別受益の相続分)、
のいずれかの相続分をさす。(相続税基本通達55-1)

★★(「民法の規定による相続分」の意義)
55-1 法第55条本文に規定する「民法(第904条の2を除く。)の規定による相続分」とは、民法第900条から第902条まで及び第903条に規定する相続分をいうのであるから留意する。(昭57直資2-177、令元課資2-10改正)

このケースの場合、指定相続のため、法定相続分ではなく遺言に指定されている相続分を基礎として課税価格を計算することになる。

実際、同書、p125で、「この場合(筆者注:この「相続分の指定遺言」のケース)の未分割申告における計算は、法定相続分ではなく遺言に指定されている相続分を基礎として課税価格を計算することになる」旨が記述されている。

 

なお、計算例は以下の記事が参考になる:

2-1 申告期限内に遺産分割協議が成立しない場合の相続税申告

https://www.souzoku-koshigaya.net/mediasite/post_188.html

 

(以下、一部抜粋、太字は筆者加筆)

例えば、被相続人が父、相続人がその子供A、B、C3名の場合、遺言がない場合、相続人3名は、遺産全体の各3分の1を取得したものとして相続税の申告・納税をすることになります。

 他方、遺言によりA:50%、B及びC各25%と相続分が指定(又は包括遺贈)がなされた場合は、これらの割合に基づいて遺産を取得したものとして相続税を申告・納税することになります。相続分の指定及び包括遺贈は、遺産全体に対する持分割合を定める効果を有するにとどまりますので、別途、遺産分割(例えば、Aが50%の相続分に相当するものとして遺産からどの財産を取得するか)を行う必要があります。したがって、遺言がなく法定相続分で相続人に遺産が帰属している場合と遺言により相続分の指定又は包括遺贈がなされている場合は、遺産に対する持分割合がことなるだけで、未分割であるという点では同じです。

 

補足

上の記事(=「2-1 申告期限内に遺産分割協議が成立しない場合の相続税申告」)の抜粋の直後には、

なお、公正証書遺言で使用される「〇〇に相続させる」との遺言(いわゆる「相続させる遺言」)は、遺産分割方法の指定と解されているため(平成3年4月19日民集第45巻4号477頁)、当該遺言により遺産分割は完了しており、「未分割」とはなりません。この場合は、遺言の内容にしたがって分割済みとして相続税の申告・納税をすることになります。

の記述がある。

上から連続して読むと、「え?未分割の申告書を作成できないの?」と思ってしまうが、、、、、

この「〇〇に相続させる」判例は、特定の財産を特定の相続人に「相続させる」旨の遺言(=特定財産承継遺言)(引用:「民法 親族・相続」、松川正毅、有斐閣アルマ、p286)を前提にしている。

その場合なら、だれにどの財産が行くかが確定している(=遺産分割が完了している)と観念できるので、未分割の申告はダメと記載してある主旨と考える。

要は、指定相続とは別の(蛇足な)話。