小規模宅地等の特例のこの事例の扱いは?(自宅の土地建物と、貸家建付地の土地建物を配偶者と共有、被相続人と別居、被相続人の真の住所は貸家建付地(の一室)、住民票上の住所は自宅)

問題の所在

以下の事例で、いわゆる小規模宅地の特例は適用できるのか、の整理:

  • 被相続人は妻、相続人は、夫、長女、次女
  • 遺産分割案は、自宅(=特定居住用宅地)の土地建物は夫、貸家建付地(=貸付事業用宅地)の土地建物は長女、残りの現金と代償分割は次女
  • 夫と妻は、自宅の土地建物と、貸家建付地の土地建物を共有してきた。したがって以下の各々で小規模宅地の特例が取れるか否かが問題となる:
    1. 自宅の土地建物の、妻の持分を、夫(配偶者)へ相続する際の細論点は以下:
      1. 夫と妻は従来より別居
      2. 妻の真の住所は貸家建付地(の一室)、住民票上の住所は自宅
    2. 貸家建付地の土地建物の、妻の持分を、長女(親族)へ相続する際の細論点は以下:
      1. 長女が、不動産事業を引き継ぐこと
      2. 長女が、当該貸家建付地の土地建物を、相続税確定申告期限日まで、
        1. 保有し続ける
        2. (貸家を)住人に貸付し続ける

 

結論

小規模宅地の特例は、自宅及び貸家建付地の両方に適用可。

 

理由

1.特定居住用宅地について(相続人は、配偶者)

・「相続開始直前において被相続人等の居住の用に供していた宅地等」の解釈

小規模宅地の特例のうち、特定居住用宅地等については、相続や遺贈によって宅地等を取得した親族が、「被相続人の配偶者か、被相続人と同居していた親族か、あるいは別居親族なのか」で要件が異なります。

① 配偶者については引き継いだ「居住」を無条件で保護する。

② ただし、その前提になるのは、「相続開始直前において被相続人等の居住の用に供していた宅地等」であったこと

(以上の出所:税理士のための相続税の実務Q&Aシリーズ「小規模宅地の特例」白井一馬著、中央経済社、p87。なお、「」と丸数字は筆者加筆):

→ 上の②の意義であるが、
・(現実には、係争中の夫が生活している自宅で同じ屋根の下で住もうとは思わないと思うが)共有持分を有しているので、その部分について「居住の用に供する」と観念し得ると考える。
・「相続開始直前において被相続人等の居住の用に供していた宅地等」とは、単に住居用に保有していることを指し、実態として住んでいたことを求める趣旨ではないと考える。

・相続開始時点において、被相続人と配偶者は離婚調停中であった

→ 現在、離婚調停中であっても、これまでの夫婦による生計で財産を築いてきた点に着目した制度であることに鑑みれば、法的に夫婦=配偶者であり、問題ない。

・相続開始時点において、被相続人は別居していた(=住民票の上での住所は自宅にしていたが)実態として自宅には住んでいなかった(貸家建付地の1室に済んでいた)

→ (いわゆる家なき子の場合には同居用件が課されているが)配偶者が相続人の場合には、(被相続人たる配偶者を手厚く保護する趣旨のため)、いわゆる同居用件は課されないので、問題ない。

→ 例えば「老人ホームにいた、入院していた」のケースは、OKとされる。「老人ホームから定期的に自宅に戻る」、「入院も治療が済めば退院して自宅に戻る」ことが想定されるからOKとされる。
★実際には、「介護認定度が進み、自宅に戻れない」「退院の見込みはない」こともあるが、
(可能性が絶対にゼロ%ではないからであろうが)その判断は求められていない

→ 離婚調停中であっても、これと同様に擬制し得る。
★実際には、離婚調停中で、自宅を出た人が相手の済む自宅に戻ることはまずない」が、
(可能性が絶対にゼロ%ではないからであろうが)その判断は求められていない

 

2.貸付事業用宅地について)(相続人は長女(「生計を一とする」ではない親族)

以下の出所:税理士のための相続税の実務Q&Aシリーズ「小規模宅地の特例」白井一馬著、中央経済社、p161):

・「生計を一にする」要件は不要

長女は、「被相続人と生計を別にする」「貸付事業を相続で承継する親族」のため。

 

補足

特記事項なし