S社様用)税効果会計の処理を徹底的に根拠規定で説明すると?

問題の所在

ここでの事例は、

  • 単体上のみ
  • 会社分類は (分類1)
  • 繰延税金資産(=将来減算一時差異)は、
    • スケジューリング可能な一時差異→賞与引当金、未払事業税、貸倒引当金①(一般繰入率で計上し翌期洗替)
    • スケジューリング不能な一時差異→貸倒引当金②(個別引当)、退職給付引当金

の、両方がある。

  • 繰延税金負債には、
    • その他有価証券評価差額金に係る繰延税金負債

がある。

この場合の会計処理(表示を含む)を確認する。

 

結論・理由

1.将来減算一時差異は、全額、繰延税金資産a/cを計上してOK

1)一般的な扱いに係る規定

以下、「繰延税金資産の回収可能性に関する適用指針」 11項 繰延税金資産の回収可能性の判断に関する手順、の、まず原文から:

繰延税金資産の回収可能性の判断に関する手順

11. 第6 項に従って繰延税金資産の回収可能性を判断する場合の具体的な手順は、次のとおりとする。
(1) 期末における将来減算一時差異の解消見込年度のスケジューリングを行う。
(2) 期末における将来加算一時差異の解消見込年度のスケジューリングを行う。
(3) 将来減算一時差異の解消見込額と将来加算一時差異の解消見込額とを、解消見込年度ごとに相殺する。
(4) (3)で相殺し切れなかった将来減算一時差異の解消見込額については、解消見込年度を基準として繰戻・繰越期間の将来加算一時差異((3)で相殺後)の解消見込額と相殺する。
(5) (1)から(4)により相殺し切れなかった将来減算一時差異の解消見込額については、将来の一時差異等加減算前課税所得の見積額(タックス・プランニングに基づく一時差異等加減算前課税所得の見積額を含む。)と解消見込年度ごとに相殺する。
(6) (5)で相殺し切れなかった将来減算一時差異の解消見込額については、解消見込年度を基準として繰戻・繰越期間の一時差異等加減算前課税所得の見積額((5)で相殺後)と相殺する。
(7) (1)から(6)により相殺し切れなかった将来減算一時差異に係る繰延税金資産の回収可能性はないものとし、繰延税金資産から控除する。
また、期末に税務上の繰越欠損金を有する場合、その繰越期間にわたって、将来の課税所得の見積額(税務上の繰越欠損金控除前)に基づき、税務上の繰越欠損金の控除見込年度及び控除見込額のスケジューリングを行い、回収が見込まれる金額を繰延税金資産として計上する。

12. 将来加算一時差異が重要でない企業の場合、繰延税金資産の回収可能性を判断するにあたって、第11 項(3)から(7)に従った方法によるほか、事業年度ごとに一時差異等加減算前課税所得の見積額及び将来加算一時差異の解消見込額を合計して、将来減算一時差異の事業年度ごとの解消見込額と比較し、判断することができる。

スケジューリング不能な一時差異に係る繰延税金資産の回収可能性に関する取扱い

13. スケジューリング不能な一時差異のうち、将来減算一時差異については、原則として、税務上の損金の算入時期が明確となった時点で回収可能性を判断し、繰延税金資産を計上する。ただし、期末において税務上の損金の算入時期が明確ではない将来減算一時差異のうち、例えば、貸倒引当金等のように、将来発生が見込まれる損失を見積ったものであるが、その損失の発生時期を個別に特定し、スケジューリングすることが実務上困難なものは、過去の税務上の損金の算入実績に将来の合理的な予測を加味した方法等によりスケジューリングが行われている限り、スケジューリング不能な一時差異とは取り扱わない。

14. スケジューリング不能な一時差異のうち、将来加算一時差異については、将来減算一時差異の解消見込年度との対応ができないため、繰延税金資産の回収可能性の判断にあたって、当該将来加算一時差異を将来減算一時差異と相殺することはできない。ただし、固定資産圧縮積立金等の将来加算一時差異は、企業が必要に応じて当該積立金等を取り崩す旨の意思決定を行う場合、将来減算一時差異と相殺することができるものとする。

((分類1)に該当する企業の取扱い)
17. 次の要件をいずれも満たす企業は、(分類1)に該当する。
(1) 過去(3 年)及び当期のすべての事業年度において、期末における将来減算一時差異を十分に上回る課税所得が生じている。
(2) 当期末において、近い将来に経営環境に著しい変化が見込まれない。

18. (分類1)に該当する企業においては、繰延税金資産の全額について回収可能性があるものとする。

 

2)この事例で計上されている、将来減算一時差異の、スケジューリング可能+スケジューリング不能の、繰延税金資産

端的にいえば、分類1のため、すべて回収可能性があるとみなせるので、当該繰延税金資産a/cに全額計上可能。

 

3)その他の包括利益「その他有価証券評価差額金」の扱い

以下、「繰延税金資産の回収可能性に関する適用指針」 38項 その他有価証券の評価差額に係る一時差異の取り扱い、の、まず原文から:

その他有価証券の評価差額に係る一時差異の取扱い

38. その他有価証券の評価差額に係る一時差異は、原則として、個々の銘柄ごとにスケジューリングを行い、評価差損に係る将来減算一時差異については当該スケジューリングの結果に基づき回収可能性を判断した上で繰延税金資産を計上し、評価差益に係る将来加算一時差異については繰延税金負債を計上する。ただし、個々の銘柄ごとではなく、次のように一括して繰延税金資産又は繰延税金負債を計上することができる。
(1) その他有価証券の評価差額に係る一時差異がスケジューリング可能な一時差異である場合は、当該評価差額を評価差損が生じている銘柄と評価差益が生じている銘柄とに区分し、評価差損の銘柄ごとの合計額に係る将来減算一時差異についてはスケジューリングの結果に基づき回収可能性を判断した上で繰延税金資産を計上し、評価差益の銘柄ごとの合計額に係る将来加算一時差異については繰延税金負債を計上する。
(2) その他有価証券の評価差額に係る一時差異がスケジューリング不能な一時差異である場合は、評価差損の銘柄ごとの合計額と評価差益の銘柄ごとの合計額を相殺した後の純額の評価差損に係る将来減算一時差異又は評価差益に係る将来加算一時差異について、繰延税金資産又は繰延税金負債を第39 項に従って計上する。

まず、この事例では、1銘柄かつ繰延税金負債a/cだけのため、38項の本文だけでよく、これを整理すると:

その他有価証券の評価差額に係る一時差異は、原則として、個々の銘柄ごとにスケジューリングを行い、

  1. 評価差損に係る将来減算一時差異については当該スケジューリングの結果に基づき回収可能性を判断した上で繰延税金資産を計上し、
  2. 評価差益に係る将来加算一時差異については(スケジューリングの結果に関係なく、つまり無条件で単純に:筆者加筆)繰延税金負債を計上する。

と読めばよい。

 

2.スケジューリング不能なその他有価証券のネットの評価差損又は評価差益に係る一時差異の扱い

以下、「繰延税金資産の回収可能性に関する適用指針」 38項 その他有価証券の評価差額に係る一時差異の取り扱い、の、まず原文から:

(スケジューリング不能なその他有価証券の純額の評価差損又は評価差益に係る一時差異の取扱い)

39. スケジューリング不能なその他有価証券の評価差額に係る一時差異について、第38項(2)によった場合、純額の評価差損又は評価差益に係る一時差異に対して、次のように繰延税金資産又は繰延税金負債を計上する。
(1) 純額で評価差益の場合
その他有価証券の純額の評価差益に係る将来加算一時差異については(スケジューリングの結果に関係なく、つまり無条件で単純に:筆者加筆)繰延税金負債を計上する。なお、当該評価差益に係る将来加算一時差異はスケジューリング不能な将来加算一時差異であるため、繰延税金資産の回収可能性の判断にあたっては(←Not 表示 But 会計処理:筆者加筆)、その他有価証券の評価差額に係る将来減算一時差異以外の将来減算一時差異とは相殺できない。
(2) 純額で評価差損の場合(当事例では関係ないため省略:筆者)

まず、大前提で、上の規定は青太字で強調したように、(表示の話しではなく)会計処理、試算表ベースでの話。

最終的に決算書上では、繰延税金資産と繰延税金負債はネット、相殺する。根拠は、

「『税効果会計に係る会計基準』の一部改正」

(一部抜粋)

18. なお、本会計基準による改正前の税効果会計基準 第三 2.では、「ただし、異なる納税主体の繰延税金資産と繰延税金負債は、原則として相殺してはならない。」とされていたが、異なる納税主体において繰延税金資産と繰延税金負債を相殺して表示する実務は見られないと考えられることから、「原則として」という表現を削除している。

また、会社法の方でも、同様の改正がなされている

https://home.kpmg/jp/ja/home/insights/2019/05/jk-tax-effect-accounting-2019-03.html

(一部抜粋)

なお、会社計算規則(平成18年法務省令第13号)においても、繰延税金資産については投資その他の資産として、繰延税金負債については固定負債として区分表示する改正がなされている(「会社法施行規則及び会社計算規則の一部を改正する省令」(法務省令第5号))。

3.繰延税金資産と繰延税金負債の相殺表示

いわゆる相殺表示については、それまでどのような会計処理であっても以下のシンプルな共通規定に従う:

税効果会計に係る会計基準企業会計基準第28号 「税効果会計に係る会計基準」の一部改正、平成30年2月16日、企業会計基準委員会 )

表 示
2. 税効果会計基準の「第三 繰延税金資産及び繰延税金負債等の表示方法」1.及び 2.の定めを次のとおり改正する。
1. 繰延税金資産は投資その他の資産の区分に表示し、繰延税金負債は固定負債の区分に表示する。
2. 同一納税主体の繰延税金資産と繰延税金負債は、双方を相殺して表示する。
異なる納税主体の繰延税金資産と繰延税金負債は、双方を相殺せずに表示する。

以前は流動・固定の各々で相殺したため、単体上でも、繰延税金資産と繰延税金資産とが両建表示されるケースがあり得たが、

今は、固定区分(=繰延税金資産は投資その他の区分、繰延税金負債は固定負債の区分)のみに計上するとされたため。

 

補足

上の2.詳細 をより簡明にした解説は以下:

スケジューリング不能な一時差異の取扱い

https://kaikegaku.net/zekoka/funoichijisai.html#hyokasagakutoriatsukai

また、すべての論点を対象とすると、以下:

その他有価証券評価差額金(評価差損)と繰延税金資産の回収可能性

http://www.nihonbashi-accounting.com/businessblog/kaikei/2020072116.html