士業の所得税の事業所得の確定申告で、クライアントごとの帳簿上の売上と、受領した支払調書の支払報酬金額が不一致の場合、どちらを正にする?

問題の所在

士業、特に弁理士業は、特定のクライアントに対し、年に何度も売上を計上することがある。

士業側では、請求書を作成・送付した日(=請求書の右上の日付)に、帳簿上、売上(売掛金)を計上する。

やり取りの時系列は、士業側が請求書を送付し(例 12/20)→ クライアントが検収(例 1/4)→支払い(例 1/31) → 支払う前までの一年分を、支払調書の支払報酬に記載、となるので、タイムラグが生じる。

換言すると、士業側での売上計上は会計の原則である発生主義を適用し、他方、クライアント側では検収基準で処理しているのだから、ズレが生じるのはある意味当然であり、したがって、士業側での確定申告の事業所得の売上は、(クライアント側ではなく)士業の側の売上計上金額を正にすべきである。

しかし、、、、士業の所得税の確定申告での支払調書の報酬額は、クライアントごとに報酬額と源泉徴収額がセットで確定申告書の別紙に一覧表示されるので、これと帳簿上の売上が見かけ不一致であるのは、正直、気持ち悪い。

しかも、弥生会計AEでは、

・確定申告書の第一表の源泉所得税の金額→会計モジュールの総勘定元帳の「源泉所得税」の合計金額A円が転記される、

・確定申告書の第二表の源泉所得税の金額→所得の内訳書に手入力した合計金額B円が転記される、

ので、絶対に乖離が生じる!

そして、弥生会計AEではこの乖離はスルーするのであるが、e-tax(インストール版)だと、ご丁寧に(?)B円が青字に代わり、手修正過疎のままかを聞かれる。これがすごいイヤ。

「売上の方は期ズレだから、税務署の方も原則はスルーだと推定するが、源泉所得税の方は、取引の相手方は売上と源泉所得税の情報を税務署に提出しているため、その情報が税務署のKSKシステム中で名寄せされ、士業側で所得税申告書上の、特に源泉所得税と金額が不一致であるかどうかがチェックされていたら、、、」などと妄想するが、さて、どうするか?

考え方としては、

  • 客先の支払調書に合わせて計上する、
  • 客先の支払調書は無視し、自らの請求書ベースで計上する、

のいずれか。

なお、実際には「士業側で請求書の作成・送付を漏れているリスク」があったりもするが、それは対象外とする。

 

結論

第二表の「所得の内訳書」の源泉所得税の合計は、、、支払調書から転記しない! 第一表と同様に、会計帳簿から転記する。

→ だから、共に、A円になる。

 

理由

上の「問題の所在」では、

・第一表の、右列の「源泉所得税」の金額 → 会計帳簿から記載。

・第二表の、「所得の内訳書」の源泉所得税の合計 → 受領する支払調書から記載

を前提にしているが、正しくは、共に会計帳簿から記載する(=A円と記載する)ため。

 

補足

多くの税理士等は、上の議論は論点に値せず、その先の、「会計帳簿の金額A円と、支払調書の金額B円とに差異があること自体」を論点にしている。以下、参考になりそうな記事:

 

確定申告書の記入方法について

https://www.ishibashi-tax.com/shigyou-tax/bengoshi-tax.html#2-4

 

フリーランス必見 年をまたぐ源泉所得税の取り扱い

https://www.hirai-tax.biz/2017/12/16/%E5%B9%B4%E6%9C%AB%E3%81%AB%E6%9C%AA%E5%85%A5%E9%87%91%E3%81%A8%E3%81%AA%E3%81%A3%E3%81%A6%E3%81%84%E3%82%8B%E5%A3%B2%E4%B8%8A%E3%81%AB%E5%AF%BE%E3%81%99%E3%82%8B%E6%BA%90%E6%B3%89%E6%89%80%E5%BE%97%E7%A8%8E%E3%81%AE%E5%8F%96%E3%82%8A%E6%89%B1%E3%81%84/

なお、上の記事中で紹介されている条文は以下:

(参考 所得税法第120条1項5号)

第一号に掲げる総所得金額若しくは退職所得金額又は純損失の金額の計算の基礎となつた各種所得につき源泉徴収をされた又はされるべき所得税の額(当該所得税の額のうちに、第百二十七条第一項から第三項まで(年の中途で出国をする場合の確定申告)の規定による申告書を提出したことにより、又は当該申告書に係る所得税につき更正若しくは決定を受けたことにより還付される金額その他政令で定める金額がある場合には、当該金額を控除した金額。以下この項において「源泉徴収税額」という。)がある場合には、第三号に掲げる所得税の額からその源泉徴収税額を控除した金額

 

また、対処法まで踏み込んでいる記事は以下の数点:

支払調書は現金主義?確定申告は発生主義?

http://kawatsu-zeirishi-blog.com/shiharaichousho/

(一部抜粋)

また会社によって、現金主義で作成していたり、発生主義で作成していたりとバラつきがあることもあります。

正直なところ、会社が作成する支払調書は「給与所得の源泉徴収票」ほど正確な書類ではありません。

したがって個人の確定申告のさいには、まず自分が作成している請求書の金額を合計することです。支払調書との差額が集計時期の差だとわかるところまで確認できれば十分です。

確定申告した売上額と支払調書の金額が違っているので税務署から指摘を受けないか?と心配される方もいますが、ご自身の売上の集計を請求書などにもとづき発生主義できちんと行っているのであれば、支払調書の金額と違っていても問題はありません。

法定調書の基礎と作成上のポイント

法定調書の基礎と作成上のポイント

(一部抜粋)

①記載金額は発生主義?現金主義? 

法定調書を作成する上で、一番悩ましいポイントが、記載金額を「発生主義」にするか「現金主義」にするかで、人によって意見が様々なところです。これまでの慣習や会社の方針、支払先と双方合意のうえで「発生主義」か「現金主義」で支払調書を作成している場合は、そのまま無理に変える必要はないかと思いますので以下はご参考程度にお願い致します。

報酬料金等の支払調書の手引きには、「年中に支払が確定した金額」と「そのうち作成日現在で未払の金額」を記載することとなっています。この「確定した金額」の解釈が問題で、例えば、12月発生1月支払いの報酬は、「発生主義」だとその年分の報酬に含めて未払い分の記載も必要、「現金主義」だと翌年分報酬になります。

結論をいうと、どちらの方法も間違ってはいないのですが、支払先側の事情を考慮すすると「現金主義」で処理する方が問題は少ないかと思います。 

ポイントは「未払の金額」の記載で、ここの記載がある場合、その支払先が確定申告したときに、その未払いに対応する源泉税額分は還付が保留され、別途手続きが必要となる可能性があるからです。

また、個人(支払先)の確定申告では、収入金額を「発生主義」で記帳します。そのため、「現金主義」で集計記載した支払調書と差額が生じて支払先側に混乱が生じてしまう恐れがあります。ですが、報酬料金等の支払調書は確定申告書に添付する必要はなく、ここに差額が生じていても帳簿上正しく経理処理されていれば税務上問題にはなりませんので、この旨を先方にご理解頂く必要があります。

なお、「現金主義」で記載する場合の未払いの金額は、支払調書作成日時点で支払期限を過ぎて未払いになっている金額となりますので、12月末時点ではないことにご注意ください。また、「現金主義」にしろ「発生主義」にしろ、未払いの金額があるのに、支払先の事情を考慮して記載しないという行為は、虚偽記載となりますのでこちらもご注意ください。