労働保険の厳密な仕訳は?

問題の所在

労働保険の仕訳は、厳密には複雑であるが、中小企業の実務では、法定福利費マイナスで済ませている。

ここでは、厳密な場合の備忘メモ。

 

結論

以下の記事の通り:

労働保険料の勘定科目は法定福利費!難易度別に仕訳例も解説! 更新日:2025.06.05

労働保険料の勘定科目は法定福利費!難易度別に仕訳例も解説! 

(以下、一部抜粋)

 

労働保険料の仕訳と勘定科目【難易度別に3パターン】

労働保険料の勘定科目は、「法定福利費」に計上するのが基本です。租税公課ではないので注意。
法定福利費の勘定科目は、労働保険料のほか年金保険料、健康保険料などの支払いなど社会保険料の支払いで使います。
労働保険料の仕訳は、従業員負担と会社負担があること、概算保険料と確定保険料の納付があることなどから少しわかりにくくなっています。
労働保険料の仕訳の方法は色々ありますが、よく利用されているものを難易度が簡単な順に3パターンを紹介していきます。

 

労働保険料の仕訳①最も簡単で中小企業で一般的に使われる方法

労働保険料の納付の時点で法定福利費に計上する、もっともシンプルでわかりやすい仕訳です。
厳密にいえば税務上は正しくない点もありますが、中小企業など小規模法人において一般的に使われている仕訳です。
従業員数が多くない企業であれば税務上の指摘事項になることも考えにくいので、この方法での仕訳で十分といえます。

【労働保険料の仕訳例①】

  • 概算保険料:60,000円(うち従業員負担20,000円)
  • 確定保険料:90,000円(うち従業員負担24,000円)

概算保険料を納付した時の仕訳

借方貸方
法定福利費60,000預金60,000

支払った概算保険料をすべて法定福利費に計上します。

給与の支払い時の仕訳

借方貸方
給料XX預金XX
法定福利費2,000

毎月の給与の支払い時点で、従業員が本来負担する雇用保険料を法定福利費のマイナスとして計上します。

確定保険料を納付した時の仕訳

借方貸方
法定福利費30,000預金30,000

確定保険料が概算保険料よりも少ない場合には貸借が逆になります。

確定保険料の納付額の全額を法定福利費に計上します。この仕訳方法は、勘定科目が「法定福利費」のみなのでいちばんわかりやすいです。
ただし、問題点があります。
その問題点とは、本来は従業員が負担するはずで損金にならない法定福利費が損金に過大計上されてしまうこと。
厳密にいえば税務上正しくありません。
ただ、従業員が少ない場合には金額的な影響も少ないので、経理処理の手間と照らし合わせてこの仕訳方法を選ぶ会社も多いです。

 

労働保険料の仕訳②税務上の問題がない方法

従業員が負担する雇用保険料を「立替金」で仕訳する方法です。
先ほど述べた国税庁が提示している損金算入の方法に従っていて税務上問題がない仕訳になります。

概算保険料の額のうち、被保険者が負担すべき部分の金額は立替金等とし、その他の部分の金額~略~申告書を提出した日~略~又はこれを納付した日の属する事業年度の損金の額に算入する。

引用:国税庁「労働保険料の損金算入の時期等9-3-3

仕訳をみていきましょう。先ほどと同じ前提です。

【労働保険料の仕訳例②】

  • 概算保険料:60,000円(うち従業員負担20,000円)
  • 確定保険料:90,000円(うち従業員負担24,000円)

概算保険料を納付した時の仕訳

借方貸方
法定福利費40,000預金60,000
立替金20,000

従業員が負担する分の労働保険料を立替金で処理します。
国税庁が、「被保険者が負担すべき部分の金額は立替金等とし」と述べている部分ですね。

給与の支払い時の仕訳

借方貸方
給料XX預金XX
立替金20,000

毎月の給与の支払い時に、従業員負担の労働保険料は立替金と相殺します。

確定保険料を納付した時の仕訳

借方貸方
法定福利費26,000預金30,000
立替金4,000

確定保険料を納付した金額には、従業員が負担する労働保険料が含まれています。
従業員の毎月の給与支払いの際に発生していた立替金と相殺します。
なお、確定保険料が概算保険料よりも少ない場合には貸借が逆になります。

上記の仕訳は、本来は従業員が負担すべき労働保険料を「立替金」として処理しているので、税務上は問題ありません。
ただし、概算保険料の納付の時にすべて「法定福利費」で処理すると、本来は支払った日よりも先の分の保険料もいっぺんに、支払い時に費用処理されてしまうことになります。
上場企業など従業員数が多い企業であれば、労働保険料の支払い月に法定福利費が大きくなり、正しい経営判断の妨げにもなりえます。
そこで、費用の発生を標準化する仕訳の方法が以下の③になります。

 

労働保険料の仕訳③上場企業などで使われる方法

前払費用を使って費用の発生を毎月標準化する仕訳の方法です。
仕訳が煩雑になりますが、従業員数が多く法定福利費を支払い時に一度に計上すると影響が大きい企業、月次決算を正確に把握したい企業がこの仕訳方法を選択しています。

【労働保険料の仕訳例③】

  • 概算保険料:60,000円(うち従業員負担20,000円)
  • 確定保険料:90,000円(うち従業員負担24,000円)

概算保険料を納付した時の仕訳

借方貸方
前払費用40,000預金60,000
立替金20,000

概算保険料の納付の仕訳では、会社負担分を前払費用、従業員負担分を立替金に計上します。

給与の支払い時の仕訳

借方貸方
法定福利費5,500前払費用5,500

実際に発生した労働保険料の分だけ、前払費用を取り崩して法定福利費を発生させます。

借方貸方
給料XX預金XX
立替金20,000

従業員が負担する労働保険料は、概算納付の時に発生した立替金と相殺します。

確定保険料を納付した時の仕訳

借方貸方
未払費用26,000預金30,000
立替金4,000

確定保険料が概算保険料を上回った場合の仕訳です。
概算納付の時に発生した前払費用・立替金の残高が足りなくなった時には、未払費用・預り金の勘定科目で処理して上記の仕訳で相殺されることになります。
概算保険料が確定保険料よりも多かった場合は、次期の概算保険料に充てることができるので仕訳は不要です。
還付を選択する場合は以下の仕訳が発生します。

概算保険料>確定保険料で還付を選択した時の仕訳

借方貸方
未収入金XXX前払費用XXX
立替金XXX

概算保険料の納付時には前払費用として資産計上し、毎月法定福利費に振り替えることでいっぺんに費用が発生せずに標準化できます。

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理由

上のように引用すると「すごく難しい」と思ってしまうが、

上の記事の冒頭に「少しわかりにくくなっています。」とあるとおり、少しわかりにくいだけ。

要するに、

仕訳①)会社負担分と従業員負担分を区別せず、概算払いと確定払いも区別しない。

仕訳②)(会社負担分は仕訳①と同様に、概算払い、確定払いを区別しない &)従業員負担分だけを、最初の概算払は立替金a/cで計上し、1年後に残高ゼロにするだけ。

仕訳③)仕訳②に加えて、会社負担分も、最初の概算払は前払費用a/cで計上し、1年後に残高ゼロにするだけ。

だから、科目も、立替金a/c、前払費用a/cに拘る必要もない。

 

補足

特記事項なし