SL社様用)その他有価証券評価差額金に係る繰延税金負債a/cを、繰延税金資産a/cと相殺する?しない?

問題の所在

繰延税金資産と繰延税金負債とは基本的に相殺するが、当事務所のクライアントには、

  • 会社分類は (分類1)
  • 他の将来減算一時差異から、スケジューリング可能な一時差異と、スケジューリング不能な一時差異の、繰延税金資産a/c
  • その他有価証券評価差額金に係る繰延税金負債a/c

の両方を計上していて、

  • SL社 → 繰延税金資産a/cと相殺していない
  • M社 → 繰延税金資産a/cと相殺している

の両ケースがある。その備忘メモ。

結論

以下が理由と思っていたが、、、、、

  • SL社
    → 繰延税金資産a/cと相殺していない。
    根拠は、当該その他有価証券は、取引先持株会の銘柄であり、繰延税金「負債」がスケジューリング不能)
  • M社
    → 繰延税金資産a/cと相殺している。
    根拠は、当該その他有価証券はREATであり、2年で処分予定→繰延税金「負債」がスケジューリング可能)

ちがう。S社は誤り。

なぜなら、S社の時価評価が純額ならば正しいが、実際は1銘柄なので総額なので。したがって通常の場合なので、繰延税金資産a/cと相殺する。。。。

理由

1.一般的な扱いに係る規定

以下、「繰延税金資産の回収可能性に関する適用指針」 11項 繰延税金資産の回収可能性の判断に関する手順、の、まず原文から:

 

繰延税金資産の回収可能性の判断に関する手順
11. 第6 項に従って繰延税金資産の回収可能性を判断する場合の具体的な手順は、次のとおりとする。
(1) 期末における将来減算一時差異の解消見込年度のスケジューリングを行う。
(2) 期末における将来加算一時差異の解消見込年度のスケジューリングを行う。
(3) 将来減算一時差異の解消見込額と将来加算一時差異の解消見込額とを、解消見込年度ごとに相殺する。
(4) (3)で相殺し切れなかった将来減算一時差異の解消見込額については、解消見込年度を基準として繰戻・繰越期間の将来加算一時差異((3)で相殺後)の解消見込
額と相殺する。
(5) (1)から(4)により相殺し切れなかった将来減算一時差異の解消見込額については、将来の一時差異等加減算前課税所得の見積額(タックス・プランニングに基
づく一時差異等加減算前課税所得の見積額を含む。)と解消見込年度ごとに相殺する。
(6) (5)で相殺し切れなかった将来減算一時差異の解消見込額については、解消見込年度を基準として繰戻・繰越期間の一時差異等加減算前課税所得の見積額((5)で
相殺後)と相殺する。
(7) (1)から(6)により相殺し切れなかった将来減算一時差異に係る繰延税金資産の回収可能性はないものとし、繰延税金資産から控除する。
また、期末に税務上の繰越欠損金を有する場合、その繰越期間にわたって、将来の課税所得の見積額(税務上の繰越欠損金控除前)に基づき、税務上の繰越欠損金の控
除見込年度及び控除見込額のスケジューリングを行い、回収が見込まれる金額を繰延税金資産として計上する。

12. 将来加算一時差異が重要でない企業の場合、繰延税金資産の回収可能性を判断するにあたって、第11 項(3)から(7)に従った方法によるほか、事業年度ごとに一時差異等
加減算前課税所得の見積額及び将来加算一時差異の解消見込額を合計して、将来減算一時差異の事業年度ごとの解消見込額と比較し、判断することができる。

スケジューリング不能な一時差異に係る繰延税金資産の回収可能性に関する取扱い
13. スケジューリング不能な一時差異のうち、将来減算一時差異については、原則として、税務上の損金の算入時期が明確となった時点で回収可能性を判断し、繰延税金資
産を計上する。ただし、期末において税務上の損金の算入時期が明確ではない将来減算一時差異のうち、例えば、貸倒引当金等のように、将来発生が見込まれる損失を見
積ったものであるが、その損失の発生時期を個別に特定し、スケジューリングすることが実務上困難なものは、過去の税務上の損金の算入実績に将来の合理的な予測を加
味した方法等によりスケジューリングが行われている限り、スケジューリング不能な一時差異とは取り扱わない。
14. スケジューリング不能な一時差異のうち、将来加算一時差異については、将来減算一時差異の解消見込年度との対応ができないため、繰延税金資産の回収可能性の判断
にあたって、当該将来加算一時差異を将来減算一時差異と相殺することはできない。ただし、固定資産圧縮積立金等の将来加算一時差異は、企業が必要に応じて当該積立金等を取り崩す旨の意思決定を行う場合、将来減算一時差異と相殺することができるものとする。

((分類1)に該当する企業の取扱い)
17. 次の要件をいずれも満たす企業は、(分類1)に該当する。
(1) 過去(3 年)及び当期のすべての事業年度において、期末における将来減算一時差異を十分に上回る課税所得が生じている。
(2) 当期末において、近い将来に経営環境に著しい変化が見込まれない。
18. (分類1)に該当する企業においては、繰延税金資産の全額について回収可能性があるものとする。

 

2.両社で計上されている、将来減算一時差異の、スケジューリング可能+スケジューリング不能の、繰延税金資産

端的にいえば、分類1のため、すべて回収可能性があるとみなせるので、当該繰延税金資産a/cに全額計上可能。

 

3.その他有価証券評価差額金の扱い

以下、「繰延税金資産の回収可能性に関する適用指針」 38項 その他有価証券の評価差額に係る一時差異の取り扱い、の、まず原文から:

その他有価証券の評価差額に係る一時差異の取扱い

38. その他有価証券の評価差額に係る一時差異は、原則として、個々の銘柄ごとにスケジューリングを行い、評価差損に係る将来減算一時差異については当該スケジューリ
ングの結果に基づき回収可能性を判断した上で繰延税金資産を計上し、評価差益に係る将来加算一時差異については繰延税金負債を計上する。ただし、個々の銘柄ごとで
はなく、次のように一括して繰延税金資産又は繰延税金負債を計上することができる。
(1) その他有価証券の評価差額に係る一時差異がスケジューリング可能な一時差異である場合は、当該評価差額を評価差損が生じている銘柄と評価差益が生じている銘柄とに区分し、評価差損の銘柄ごとの合計額に係る将来減算一時差異についてはスケジューリングの結果に基づき回収可能性を判断した上で繰延税金資産を計上し、評価差益の銘柄ごとの合計額に係る将来加算一時差異については繰延税金負債を計上する。
(2) その他有価証券の評価差額に係る一時差異がスケジューリング不能な一時差異である場合は、評価差損の銘柄ごとの合計額と評価差益の銘柄ごとの合計額を相殺した後の純額の評価差損に係る将来減算一時差異又は評価差益に係る将来加算一時差異について、繰延税金資産又は繰延税金負債を第39 項に従って計上する。

 

まず、SL社については、1銘柄かつ繰延税金負債a/cだけのため、38項の本文だけでよく、これを整理すると:

その他有価証券の評価差額に係る一時差異は、原則として、個々の銘柄ごとにスケジューリングを行い、

  1. 評価差損に係る将来減算一時差異については当該スケジューリングの結果に基づき回収可能性を判断した上で繰延税金資産を計上し、
  2. 評価差益に係る将来加算一時差異については(スケジューリングの結果に関係なく、つまり無条件で単純に:筆者加筆)繰延税金負債を計上する。

と読めばよい。

次に、M社については、「複数銘柄があり、評価差益、評価差損の両方があり、REATなので償還期限があるのでスケジューリング可能」であるため、38項(1)を再掲し、

 

(1) その他有価証券の評価差額に係る一時差異がスケジューリング可能な一時差異である場合は、当該評価差額を評価差損が生じている銘柄と評価差益が生じている銘柄とに区分し、

  • 評価差損の銘柄ごとの合計額に係る将来減算一時差異についてはスケジューリングの結果に基づき回収可能性を判断した上で繰延税金資産を計上し、
  • 評価差益の銘柄ごとの合計額に係る将来加算一時差異については(スケジューリングの結果に関係なく、つまり無条件で単純に:筆者加筆)繰延税金負債を計上する。

と読めばよい。

補足

上の2.詳細 をより簡明にした解説は以下:

スケジューリング不能な一時差異の取扱い

https://kaikegaku.net/zekoka/funoichijisai.html#hyokasagakutoriatsukai

また、すべての論点を対象とすると、以下:

その他有価証券評価差額金(評価差損)と繰延税金資産の回収可能性

http://www.nihonbashi-accounting.com/businessblog/kaikei/2020072116.html