l様用)勘定科目内訳明細書で、使用人兼務役員は役員報酬?給与手当?▼工事中

問題の所在

以下の事例:

1)オーナー系のグループ会社の100%子会社

2)従来、グループの会長と関係会社からの出向の社長が役員報酬をgetしている。

(3)(名ばかり)監査役が6名もいるが、当社が支払う(負担する)役員報酬はゼロ。

4)従業員は、プロパー以外に2名いて、一人は関連会社から当社へ出向、もう一人はB生命保険会社から当社への出向のA氏。

5)後者の出向者は3年程度で交代になるが、A氏は(幹部登用含みで)当社へ令和6年7月に転籍し、当社の取締役に就任し登記済。

6)なおA氏は上述の通りオーナーの親族ではないため、当社の株式を取得していない。

(7)顧問税理士は、上の登記済を令和7年3月の決算時まで把握しておらず、令和6年7月以降もA氏の報酬を給与手当a/cに含めて仕訳してきた。

8)そこで、A氏の就任時の株主総会の議事録をchしたが、使用人兼務役員の使用人分の報酬と役員分の報酬の明記はなかった。

9)また、令和7年4月1日時点の組織図(=当社の慣習で令和7年3月末の決算の翌日付で作成される)をchしたが、組織図上は、取締役の文字はなく統括部長の肩書のみである。 ★なお当社は社員は全員で10名弱の小規模であり、部長はA氏のみである。

10)毎月の給与明細をchすると、令和6年6月以前と令和6年7月以降とでの、

変更になった点は、

・職能給、成績給はゼロになった。基本給計が360,690円で一定。

変更がない点は、

・役員報酬欄はゼロのまま。資格手当、住宅手当、家族手当はアリ。

A氏の報酬は、

① 試算表上、役員報酬a/cで計上することがマストか?(当期の7月以降、又は翌期(=令和8年3月期)

② 法人税の役員報酬の規制の対象になるのか?

③ 勘定科目内訳明細書、法人事業概況説明書上、役員報酬に計上することがマストか?

これに関し、以下の国税庁の記事では、登記済の取締役は100%、役員の規制かの書きぶり (^^)

No.5200 役員の範囲

https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/hojin/5200.htm

(以下、一部抜粋)

対象税目

法人税

概要

役員とは次の者をいいます。

役員の範囲

1 法人の取締役、執行役、会計参与、監査役、理事、監事および清算人

2 1以外の者で次のいずれかに当たるもの

(1) 法人の使用人(職制上使用人としての地位のみを有する者に限ります。)以外の者で、その法人の経営に従事しているもの

なお、「使用人以外の者で、その法人の経営に従事しているもの」には、例えば、①取締役または理事となっていない総裁、副総裁、会長、副会長、理事長、副理事長、組合長等、②合名会社、合資会社および合同会社の業務執行社員、③人格のない社団等の代表者または管理人、または④法定役員ではないが法人が定款等において役員として定めている者だけをいうのではなく、相談役、顧問などで、その法人内における地位、職務等からみて実質的に法人の経営に従事していると認められるものも含まれます。

(2) 同族会社の使用人(職制上使用人としての地位のみを有する者に限ります。)のうち、次に掲げるすべての要件を満たす者で、その会社の経営に従事しているもの

イ その会社の株主グループ(注1)をその所有割合(注2)の大きいものから順に並べた場合に、その使用人が所有割合50パーセントを超える第一順位の株主グループに属しているか、または第一順位と第二順位の株主グループの所有割合を合計したときに初めて50パーセントを超える場合のこれらの株主グループに属しているか、あるいは第一順位から第三順位までの株主グループの所有割合を合計したときに初めて50パーセントを超える場合のこれらの株主グループに属していること。

口 その使用人の属する株主グループの所有割合が10パーセントを超えていること。

ハ その使用人(その配偶者およびこれらの者の所有割合が50パーセントを超える場合における他の会社を含みます。)の所有割合が5パーセントを超えていること。

(注1) 「株主グループ」とは、その会社の一の株主等およびその株主等と親族関係など特殊な関係のある個人や法人をいいます。

(注2) 「所有割合」とは、次に掲げる場合に応じて、それぞれ次に定める割合をいいます。

(1) その会社がその株主等の有する株式または出資の数または金額による判定により同族会社に該当する場合

その株主グループの有する株式の数または出資の金額の合計額がその会社の発行済株式または出資(その会社が有する自己の株式または出資を除きます。)の総数または総額のうちに占める割合

(2) その会社が一定の議決権による判定により同族会社に該当することとなる場合

その株主グループの有する議決権の数がその会社の議決権の総数(議決権を行使することができない株主等が有するその議決権を除きます。)のうちに占める割合

(3) その会社が社員または業務執行社員の数による判定により同族会社に該当する場合

その株主グループに属する社員または業務執行社員の数がその会社の社員または業務執行社員の総数のうちに占める割合

根拠法令等

法法2、法令7、71、法基通9-2-1

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結論

・いわゆる使用人兼務役員の論点である。

・使用人兼務役員の規定に該当すると判断する。

・報酬のうち役員分はゼロであるとみなせると判断する。

 

理由

まず、上の問題の所在の中で引用した国税庁の記事は、みなし役員の話であり、「本来、形式的には役員ではない人を役員にみなす」規定であるが、

今回の話は逆で、「形式的に役員ではあるが、実態上、役員の権限がない人に役員の規定を適用しない」ことを確認するので、論点は以下の2点:

・使用人兼務役員に該当、

・役員分がゼロ%、

この点に関し、以下の本が参考になる ★この本は

同書のp31の ●使用人兼務役員のフローチャート に当てはめると、「使用人兼務役員になることができる」になると判断され、

同書のp30の ●使用人給与相当額の可否フローチャート に当てはめると、「相当額が、役員報酬の規定の枠外」になると判断される。

最後に、相当額を100%(役員分をゼロ)と主張できるか否かが問題となる。

この点に関し、以下の記事1),2)が参考になる;

1)Q23【簡単説明】使用人兼務役員とは?判定基準・メリットデメリット・使用人報酬の算定方法は?

Q23【簡単説明】使用人兼務役員とは?判定基準・メリットデメリット・使用人報酬の算定方法は?

(以下、一部抜粋)

(3)役員報酬部分ゼロにできるのか?

理屈上は可能だと思います。
ただし、上記の通り、「適正な使用人部分給与」を算定し、超えた部分が役員報酬となりますので、「超えた部分がゼロ」ということを証明できなければいけません。
つまり、他の部長等との給与比較で、多い場合は、「役員分が含まれている」とみなされる可能性がありますので、十分留意が必要です。

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2)使用人兼務役員の使用人分給与の決め方

http://www.uehara-kaikei.jp/column/?p=1218

(以下、一部抜粋)

法人税の考え方

使用人兼務役員の給与総額を使用人部分と役員報酬部分に区分しなければなりません。
法人税では次のように計算することになっています。

役員報酬 = 支給総額 - 適正使用人分給与

つまり、適正使用人分給与を先に決めて、役員報酬は結果として決まるということです。

使用人分給与を多くした方が有利だからということで、支給総額の全額を使用人分給与として、役員報酬をゼロにしてしまうという単純な考え方は認められません。

あくまでも使用人分の給与は適正な金額までしか認められないのです。

使用人分の給与の適正額

適正使用人分給与について次の通達があります。

法人税基本通達 9-2-23
使用人分の給与の適正額

使用人兼務役員に対する使用人分の給与を令第70条第1号ロ《限度額等を超える役員給与の額》に定める役員給与の限度額等に含めていない法人が、使用人兼務役員に対して使用人分の給与を支給した場合には、その使用人分の給与の額のうち当該使用人兼務役員が現に従事している使用人の職務とおおむね類似する職務に従事する使用人に対して支給した給与の額(その給与の額が特別の事情により他の使用人に比して著しく多額なものである場合には、その特別の事情がないものと仮定したときにおいて通常支給される額)に相当する金額は、原則として、これを使用人分の給与として相当な金額とする。この場合において、当該使用人兼務役員が現に従事している使用人の職務の内容等からみて比準すべき使用人として適当とする者がいないときは、当該使用人兼務役員が役員となる直前に受けていた給与の額、その後のベ-スアップ等の状況、使用人のうち最上位にある者に対して支給した給与の額等を参酌して適正に見積った金額によることができる。

要するに、

取締役経理部長の経理部長としての給与は、たとえば取締役ではない総務部長の給与を基準として決めましょう、ということです。
経理部長と総務部長を比較するのであればわからなくもありませんが、取締役営業部長の営業部長分の給与を経理部長と比較して決めるのは釈然としないのは僕だけではないと思います。

こんなことありますよね

ある程度の規模の会社であれば、比較する役職者(比準使用人といいます)が多数いるかもしれませんが、中小企業では比準使用人として適切な人がいないかもしれません。

こうした実情に配慮して、比準使用人がいない場合の対処方法も通達には記述されています。しかし、これですべてが解決できるわけでもないと思います。

全員が役員で全員が事業運営の実務をしている

ベンチャー企業で外部の人材を役員登用し、同時にラインの部門長を兼任してもらっている

親会社で部長職の人が取締役として送り込まれ子会社で部門長も兼務している。親会社とは給与格差があるため給与が突出している

創業時から取締役で実務を担当してきた。拡大に応じて社員が増加したが給与水準が比較にならない

取締役が退任したので定員不足を補うために社員を役員昇格させた。実態は従業員と同じなので給与総額はほとんど上げていない

合理的なロジックを組むことが大切

国税調査官は、使用人兼務役員の給与についてすぐに上記の通達を思い出します。
通達に準拠していないから修正が必要!と指摘されることもありえます。
少なくとも、通達に記載された方法に準拠していない場合には、どのようなロジックで役員報酬と使用人分給与を区分したのか質問されることでしょう。

上記は、あくまでも「通達」であって「法律」ではありません。通達は判断指針として国税調査官を拘束するものではありますが、納税者を拘束するものではありません。

納税者サイドに合理的なロジックがあり、課税上の弊害がなければ問題なく認めてもらえるものです。現に、通達にも「等を参酌し」と記載されています。例示された計算方法以外認められないというようなことはありません。
これまでに何度も指摘を受けたことがありますけど、きちんと説明したら納得してもらえました。

使用人兼務役員に使用人分賞与を支給するとこの問題が表面化してきます。
指摘されてから考えるのではなく、きちんとした論拠をもって適正使用人分給与を決定し、書面化しておくことが大切です。

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上の2つの考え方をこの事例に当てはめると、

・A氏の報酬は、取締役に就任する前後で、昨今の賃金上昇の分が(他の従業員と同様に)オンされた分を差し引くと、ほとんど変わらない。つまり、使用人分が報酬のほとんどすべてを占めているため、差し引きで算出される役員分はゼロとみなして差し支えないと判断する。

 

補足

特記事項なし