M様用)当期の売上計上分に係る翌期の入金の過少が、当期の決算整理期間中に判明した場合の対応は?
問題の所在
以下の事例:
・上場会社の100%子会社。3月決算。
・2025年3月にA市へ売上計上。
・当社側では、売上計上時には、事前にA市へ提出済の内訳書に基づく請求書(証票名「売上伝票」)を発行し、計上している。
・請求書のレイアウトは、{(税抜き単価、円単位)×実施件数}×消費税=税込み 1,366,482円。なぜなら、インボイス制度導入後、「1つの請求書上で消費税の計算は1回」と明文化されたため。
・2025年4月第2週の決算整理中に、A市より、売掛金の入金は、{(税込み単価、円単位)×実施件数}=税込み 1,359,
・上の両者で、円単位の端数処理の都合で、差額 6,519円が過少入金が確定。
・当該差額を分析すれば算数的には消費税の部分の計算差額ではある。が当社の消費税申告のインボイス対応上は、今回の請求書の通りに仕訳するしかない。だからこの場合、通常の仕訳入力である税込み入力・内税方式だと、税抜き金額も差額が生じる。
・A市へのこの売上はスポットであり、2025年4月以降の売上はないため、次の売上からの売上値引とすると、A市売掛金a/cに6,519円の僅少額の残高が残り、かつA市売上a/cがマイナス残高になるが、当社の財務会計上は、通常はそのような会計処理はしない。
↓
端的に言えば、「当期に売上計上が完了し、翌期に入金差額が生じる場合の、会計、税務、
結論
・当該差額は僅少額のため、2025年3月期の決算は、修正しない。
・2025年4月入金時の仕訳案は、以下の2つの仕訳が考え得るが、僅少額のため基本的にどうやってもいいが、消費税申告に合わせた方がベターと考え、イレギュラー処理である案2)は選択せず、案1)を選択するでいいと考えます。
案1)説明は、「事前に売掛金の積算を誤解していた → 僅少額なため、2026年3月期に、差額を雑費a/c又は雑損失a/cで処理」
(借)普通預金 1,359,
(借)売上高a/c 又は 雑費a/c 又は 雑損失a/c 5,926円(税抜き)
(借)仮受消費税等 593円
(貸)売掛金 1,366,482円
案2)説明は、「差額は、消費税の計算差額である点を重視し、敢えて消費税相当額だけを修正」
(借)普通預金 1,359,
(借)仮受消費税等 6,519円(まあ、税抜き)
(貸)売掛金 1,366,482円
・なお僅少額すぎるので、事前に監査法人に説明も不要では?
理由
端的に言えば、
・監査上は、金額的重要性が僅少なため、要修正を求められることは無いと考えるから。
・会計上、法人税法上、消費税法上は、翌期に修正でOKとされていると考えるから。ただし会計ソフトの制約、消費税申告等の後処理の都合があれば、そちらを優先した処理で問題ないと考えます。
補足
念のため、あるべき処理を各立場から検討してみると以下:
会計上)
・まず今回の売掛金の過少入金取引を、会計上、どう捉えるかが問題となる。
・案1として、「当社担当者の単なる誤謬、として捉える」ならば、
誤謬(=まちがい)訂正として処理。
→ 当該入金差額取引の金額的重要性が僅少のため、雑費a/c又は雑損失a/cで処理でOK。
・案2として、「あくまで取引事実、として捉える」ならば、
収益認識基準74項 後段の、「~。取引価格の事後的な変動のうち、既に充足した履行義務に配分された額については、取引価格が変動した期の収益の額を修正する。」に該当すると考える。
→ ★なお、74項の文末の「(適用指針[設例13])」は同項の前段の文に係るものであり、上の後段の文には関係ないと考える。
→ 「取引価格が変動した期」とあることから、2025年3月期での計上額はいじらず確定で、当該差額は2026年3月期で処理することになる。
→ 「収益の額を修正す」ればよい。この点に関し、通常は「翌期の売上の値引き処理=(借)売上高a/c 又は 売上値引きa/cとして処理」することになる。
→ 今回は、2025年4月以降にA市向けの売上がないことから、通常の値引き処理をすると、帳簿上、A市向け売上が借方金額計上になる。
私見ではPLのマイナス残なので一期で確実に消えるためこれで計上していい気がしますが、
売上マイナス処理が当社の会計ルール上、ダメという事情がもしあるのなら、それを理由にするのであれば、それはもはや収益認識基準とは別の理屈になり、取りうる方法として、収益マイナス処理の便宜的な代替として、雑費a/c又は雑損失a/cで計上することになる。
・なお、このケースで、前期損益修正損a/cの使用の可否については、収益認識会計上、上の「取引価格が変動した期」の文言に鑑みると、使えないと考える。(もっともこの金額であれば僅少額のため、使わない)
法人税法上)
・法人税上の収益計上の扱いは、実質的には収益認識基準と同じ扱いになるように調整されているハズ。
・具体的には、2026年3月期で売上値引の処理になる。
(・収益マイナスなので損金ではないと強気に考えれば、損金経理要件を考える必要もないから、仕訳の科目もどうでもいい)
消費税法上)
・上の差額は意味としては、消費税の計算差額の面はあるが、消費税のインボイス処理上は、上の収益認識基準、法人税と同じ、売上値引きとして処理することになると考える。
・以下の国税庁の記事を参照 (★値引きよりも返品等を意識した文章になっている気がする):
No.6359 値引き、返品、割戻しなどを行った場合の税額の調整(売上げに係る対価の返還等)
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shohi/6359.htm
(以下、一部抜粋)
調整を行う時期
当初の課税資産の譲渡等を行った課税期間でなく、売上げに係る対価の返還等を行った課税期間において調整を行います。
調整の方法
課税標準額に対する消費税額から売上げに係る対価の返還等に係る消費税額を控除します。
ただし、課税資産の譲渡等の金額からその売上げに係る対価の返還等の金額を控除する経理処理を継続して行っているときは、この処理も認められます。
適用要件
売上げに係る対価の返還等の金額に係る消費税額について控除を受けるには、売上げに係る対価の返還等をした金額の明細等を記録した帳簿を保存する必要があります。
課税資産の譲渡等の金額からその売上げに係る対価の返還等の金額を控除する経理処理を行っている場合も同様です。
会計監査対応上)
・経緯が、「A市は事前に内訳書を受領していて承知していたくせに、支払の直前になって、市の採用する(?)税込み経理処理に基づく支払金額を通知してきた!」のだったら、を今回の差額は、A市の側の落ち度と言いたいくらい。役所特有の精算の計算。当社は民間なのでイレギュラー取引。誤謬も仕方ない。
・他方、経緯が、「当社の担当者が、事前にA市にインボイスのことをネゴることを漏らしていた」のだったら、当社側の誤りと整理しても仕方ない。
・そして、虚偽表示の金額は、監査上の重要性の基準値に照らして限りなく僅少である。監査上は僅少額ゆえ、虚偽表示の集計対象にもならないと推定する。
・つまり、粉飾等の会計不正等にも関係しないし、僅少額なので、監査法人的には気にしない。
・監査法人に事前には説明せず、もし監査手続の入金テストでこの差額がヒットして後で質問されたら、2つのpdfを提出して、「ああ、○○と聞いています。少額なので差額を雑損失で受けようと思いますー」と説明しておけば足りると考える。
・まあ、事前に説明してあげれば、「それだけ細かくやっている/きちんと説明してくれる」、と好意的に感じてくれるかも(?)
内部統制監査対応上)
・売上計上プロセス(収益認識プロセス)で、仮にSTEP4をキーコントロールとして選定していたら、2026年3月期の運用テストのサンプルで抽出されテストされる可能性はゼロではない。
・ただ、その場合でも、
「今回の差額は、A市の方の落ち度と言いたいくらい。役所特有の制度の計算。当社は民間なのでイレギュラー取引。誤謬も仕方ない。」と判断して、運用テスト上、積極的に不備扱いにはせず、エクセプション扱い(除外扱い)にして、サンプルを取り直す、
のが通常の監査人の判断と考える。
★上のは大手監査法人の作法であり、某中小監査法人だと担当者のスキルに依ります <m(__)m>
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