【2024/11/14訂正】オフィスビルの賃借料の、フリーレント期間のあるケースでの「借手」の会計処理は?

問題の所在

以下の事例:

・上場企業のご担当者様からのご質問。

・新規の賃借物件で、契約は11月からですが、フリーレント期間があり、賃借料は3月分から発生する。※契約期間28カ月 支払期間24カ月。

・監査法人より24カ月の家賃総額を28カ月で割り直して、会計処理するように依頼されたそう。

・税務上では年間の支払金額と計上額のアンマッチ分は否認になると推察されており、また消費税も調整して申告しなければならず大変面倒と推察されている。

・ググってみたところ、フリーレント期間は会計処理を行わないことも認められているよう。

・また以前、子会社で同じような取引で、フリーレント期間は会計処理をしなかった記憶もあるそう。

前提知識としては、会計方針は以下の記事の通り、2通りある。

★以下で、「仕訳なし方式」と「期間按分方式」という。

Q137 【判例で否認も?】フリーレントの借主側(テナント)の税務処理は?中途解約不能・違約金がある場合の取扱い

(以下、一部抜粋)

2. 会計処理は2つ

税法上、フリーレントの処理に関して、「借主側」の規定は、特にありません。

実務上は、以下の2つの会計処理が考えられます。

フリーレント期間の仕訳はなし
(仕訳なし)
実際のお金の支払に合わせて仕訳を行い、消費税も、支払に合わせて「課税仕入」を計上します。
フリーレント期間は「仕訳なし」、実際支払時に支払額で会計処理を行います。中小企業では、圧倒的にこっちが多いですね。
賃料等総額を契約期間で按分&毎月賃料計上
(期間按分)
実際のお金の支払にかかわらず、「賃料等総額を契約期間で按分した月額負担額」を、毎月費用計上し、消費税も、毎月の費用計上に合わせて「課税仕入」を計上します。
フリーレント期間でも、「現実的に事務所は利用している」ので、会計の発生主義の考え方と整合しています。上場会社は、こちらで処理することが一般的です。
ただし、このやり方は、「中途解約不能で、賃料総額が確定」している場合のみ選択可能です。

以下、①仕訳なし、③期間按分と略します。

(引用者中略)

明確な規定がないため、あくまで私見となりますが・・税法上は、上記2つの処理、どちらの選択も可能だと考えます。

ただし、実務上は、圧倒的に上記①「支払いに応じて仕訳を行う」(=仕訳なし)方法が楽です。

一方、裁判例では、「上記②」の考え方が否認されている場合もあるようです(平成30年6月15日裁決)。
(裁判例は、フリーレント期間は、「無料、免除」ではなく、「賃料減額」で先方と合意されている事例です。)

確かに、先方(賃貸先)の会計処理は不明のため、税務調査の観点からも、上記①の方が無難な結論なのかもしれません。

結論的には、上場会社などでは、上記②「期間按分」が必要な場面もあるでしょうけど、中小企業の場合は上記①「仕訳なし」でよいのではないでしょうか?

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→ ではこの事例の場合に、どう考えるか?

 

結論

以下の通りと考える:

・おそらく契約書上、「中途解約不能で、賃料総額が確定している」と推察される。

・その場合、仮に「貸手」の場合であれば、
後述のEY新日本の記事、適用指針の旧と新とも「貸手」について(=貸手に限定して)議論しているので、(適用指針の新版以前の従来でも)上の②期間按分基準、を採用するのがベターと考えますが、、、、
今回の事例は「借手」であり、以上の貸手に関する結論を単純に借手に当てはめるのは不当と考える。

・この点に関し、「借手について明言していなくても、貸手の処理に対応させるのが自明では?」という反論があるかもしれない(以下で「自明説」という)が、、、、
①リース会計基準、同適用指針において、そのような自明な関係が前提の旨の明文はないこと、
②個々の各規定で、借手、貸手と都度明記して書き分けている書きぶりであること、
に鑑みると、上の自明説は当てはまらないと考える。

そこで、単純に会計理論上の発生主義まで戻って検討すると、上の①仕訳なし方式でも②期間按分方式でもどちらでも可と考える。

・次に税務上では、上の②期間按分方式だと、(貸手であれば、益金計上が先行するので、税務署はスルーと楽観できるが)借手だと損金が先行計上されるので、税務調査で否認されるリスクがあると考える。

 

理由

まず、貸手の会計処理については、以下が参考になる:

不動産業 第3回:不動産賃貸業の事業と会計の特徴

https://www.ey.com/ja_jp/corporate-accounting/industries/real-estate-hospitality-construction/industries-real-estate-hospitality-construction-real-estate-2019-11-14-03

(以下、一部抜粋)

(1) フリーレントの会計処理

フリーレントとは、入居後の一定期間について賃料を無料とする賃貸借契約をいい、月々の名目賃料を下げずに、賃貸借期間全体の賃料を実質的に値引きするための手法として利用される賃貸借契約の一形態です。通常の賃貸借契約から発生する賃料、共益費等の多くはリース取引に関する会計基準の適用となり、収益認識基準の適用範囲に含めないとされている(収益認識基準3項(2)、104項)ため、特殊な契約条件であるフリーレントについて、どのように賃料を収益認識するかが論点となり、実態に応じた会計処理を行うことになります。

例えば、賃貸借期間の当初2カ月をフリーレント期間とした場合、単純に、これを「値引き」と考えれば3カ月目の賃料から収益計上を開始することになります

しかし、解約不能条項があるフリーレント契約では、2カ月のフリーレントは実質的に賃貸借期間全体の家賃の値引きと考えられるため、貸主としては当該契約が2年契約だとすれば、解約不能期間(この場合、24カ月間)で賃料を平均化して収益計上することが必要であると考えられます。すなわち、22カ月分の賃料を24カ月で均等に収益計上することになります。

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【2024/11/14訂正】次に、以下の書籍では、2024/9/13の改正リース会計基準及び同適用指針の前の直近の同適用指針の89項に触れ、

要はリース会計基準及び同適用指針の枠外で考え、あるべき会計的な処理として、

・貸手の収益計上では、会計上、上の期間按分方式で計上することになる旨、

・すぐ上の場合、貸手の税務上の益金処理上では、法人税基本通達2-1-29が是認される(益金計上は是認される)旨、

・借手の費用計上では、会計上、上の期間按分方式で計上できる旨、

・すぐ上の場合、借手の税務上の損金処理上では、損金計上には慎重に判断するのがベターな旨、

をp143で解説している。

先に以下、法人税法基本通達2-1-29を引用(本文の太字は引用者追記):

(賃貸借契約に基づく使用料等の帰属の時期)

2-1-29 資産の賃貸借(金融商品(平成20年3月10日付企業会計基準第10号「金融商品に関する会計基準」の適用対象となる資産、負債及びデリバティブ取引をいう。)に係る取引、法第64条の2第3項《リース取引に係る所得の金額の計算》に規定するリース取引及び2-3-62《暗号資産信用取引に係る売付け及び買付けに係る対価の額》の対象となる取引に該当するものを除く。以下この章において同じ。)は、履行義務が一定の期間にわたり充足されるものに該当し、その収益の額は2-1-21の2の事業年度の益金の額に算入する。ただし、資産の賃貸借契約に基づいて支払を受ける使用料等の額(前受けに係る額を除く。)について、当該契約又は慣習によりその支払を受けるべき日において収益計上を行っている場合には、その支払を受けるべき日は、その資産の賃貸借に係る役務の提供の日に近接する日に該当するものとして、法第22条の2第2項《収益の額》の規定を適用する。(昭55年直法2-8「六」により追加、平30年課法2-8「二」、令元年課法2-10「三」、令2年課法2-17「ニ」により改正)

(注)

1 当該賃貸借契約について係争(使用料等の額の増減に関するものを除く。)があるためその支払を受けるべき使用料等の額が確定せず、当該事業年度においてその支払を受けていないときは、相手方が供託をしたかどうかにかかわらず、その係争が解決して当該使用料等の額が確定し、その支払を受けることとなるまで当該使用料等の額を益金の額に算入することを見合わせることができるものとする。

2 使用料等の額の増減に関して係争がある場合には(注)1の取扱いによらないのであるが、この場合には、契約の内容、相手方が供託をした金額等を勘案してその使用料等の額を合理的に見積もるものとする。

3 収入する金額が期間のみに応じて定まっている資産の賃貸借に係る収益の額の算定に要する2-1-21の6の進捗度の見積りに使用されるのに適切な指標は、通常は経過期間となるため、その収益は毎事業年度定額で益金の額に算入されることになる。

なお同89項は以下(太字は引用者加筆):

89. 本適用指針の適用範囲は、ファイナンス・リース取引については、「通常の保守等以外の役務提供が組み込まれていないリース取引及び不動産に係るリース取引」としており(第 3 項参照)、典型的なリース取引及び不動産に係るリース取引を取り扱うこととしている。すなわち、本適用指針では、リース会計基準でファイナンス・リース取引とされるもののうち、主たるものについて詳細な会計処理を示しており、本適用指針で詳細な会計処理を示していないファイナンス・リース取引については、実態に基づき会計処理を行うこととなる。
ここで、典型的なリース取引としては、リース期間中のリース料の支払いが均等であり、リース期間がリース物件の経済的耐用年数より長くないことを想定している。また、「通常の保守等」は、自動車やコピー機などのリース取引におけるメンテナンスなどを想定している。
なお、通常の保守等以外の労務等の役務提供が含まれているリース取引(例えば、システム関連業務において、システム機器のリース取引と労務等が一体化されている取引)については、本適用指針の対象としていないが、動産等のリース取引部分と役務提供部分が契約書等で判別できるケースなど容易に分離可能な場合には、動産等のリース取引部分について、本適用指針を適用するものとする。
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【2024/11/10追記】なお、2024年9月13日にASBJから改正リース会計基準が(公開草案ではなく)公表済であり、同基準の中で、貸手についてフリーレントがある場合の会計処理について触れている。以下、企業会計基準適用指針第 33 号「リースに関する会計基準の適用指針」より引用:

BC121.また、審議の過程で、実務においては、フリーレント(契約開始当初数か月間賃料無償となる契約条項)やレントホリデー(例えば、数年間賃貸借契約を継続する場合に一定期間賃料が無償となる契約条項)等の無償賃貸期間に関する会計処理が必ずしも明らかでなく、企業会計基準第13 号におけるオペレーティング・リース取引の会計処理の実務に多様性が生じており、企業間の比較可能性が損なわれているとの意見が聞かれた。
貸手のオペレーティング・リースの会計処理について、収益認識会計基準との整合性を図り、取引価格に相当する貸手のリース料を貸手のリース期間にわたり原則として定額法により収益に計上することは、リースの会計処理について企業間の比較可能性を高めることになると考えられる。また、リースの定義を満たさずに収益認識会計基準の適用範囲に含まれるリースと経済実態が類似した契約の会計処理との整合性が図られることとなる。さらに、リース事業における企業の主たる営業活動の成果であるリースの収益が、収益認識会計基準の適用範囲に含まれる他の事業における企業の主たる営業活動の成果である収益と比較可能性が高まることも望ましいと考えられる。
ここで、貸手のリース期間については、借手のリース期間と同様に決定する方法(会計基準第32 項(1))と借手が原資産を使用する権利を有する解約不能期間にリースが置かれている状況からみて借手が再リースする意思が明らかな場合の再リース期間を加えて決定する方法(会計基準第32 項(2))のいずれかを選択して決定することを認めている。我が国におけるオペレーティング・リースについては解約不能期間が著しく短い契約も見受けられることから、企業が後者の会計基準第32 項(2)の方法を選択する場合に契約に無償賃貸期間が含まれるときは、当該解約不能期間を基礎としてオペレーティング・リースの収益を計上することは取引実態を正しく反映しない可能性がある。
これらを踏まえ、貸手は、オペレーティング・リースによる貸手のリース料について貸手のリース期間にわたり原則として定額法で計上することとし、貸手のリース期間について会計基準第32 項(2)の方法を選択して決定する場合に当該貸手のリース期間に無償賃貸期間が含まれるときは、貸手は、契約期間における使用料の総額(ただし、将来の業績等により変動する使用料を除く。)について契約期間にわたり計上することとした(本適用指針第82 項参照)。
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・なお、「過去、監査法人が、子会社での同様な取引について「仕訳なし方式」で指摘がなかった」点は、「当時、気が付かなかった可能性が高い」と推察します。
また仮に当時の担当CPAが「仕訳なし方式」で明快にOKといったと仮定しても、今回、それを持ち出しても説得にはならないと推察します。
仮に監査法人にそれをいうと、もし当該子会社での処理が金額的重要性が大きい場合、最悪、遡及修正の憂き目に会うリスクがあるためです。

 

補足

「会計上、貸手は期間按分方式がベター」である根拠については、上の記事や書籍でも明確に引用していない。

一瞬、「当社は借手側であるが、貸手側で収益認識基準での値引きの処理→そのパラレルな処理を借手側に課すように考える」と思ってしまったがマチガイ。(∵フリーレントはリース取引の範疇になり、収益認識基準の対象外だから)

結局、当該根拠は、純粋に(単純に?)会計理論上の話と推定する。

従来の不動産賃貸業の実務ではよく登場する論点なのかもしれないが、、、、筆者は不動産は専門外なので (*^^*)