所得税法上、非上場株式の譲渡損益の算出で、評価額を財産評価基本通達で算出することの根拠は?

問題の所在

所得税法上、非上場株式の譲渡損益の算出で、譲渡費用を財産基本通達で算出することは、税理士的には経験知なのだが、具体的な規定となると曖昧だったので、その備忘メモ。

参考ブログは以下:

非上場株式の売買 ③ 株価算定

非上場株式の売買 ③ 株価算定

結論

便宜上、譲渡の相手先を、個人と法人とに分けて記載すると以下の通りである:

・個人から個人への譲渡は、、、

相続税法の7条が、「譲渡の対価が著しく低い場合は、譲受人個人Bは、譲渡者個人Aから贈与を受けたとみなす」旨の規定があるため、贈与税における評価方法 → 財産評価基本通達、の適用となる。

・個人から法人への譲渡は、、、

所得税法 基本通達59-6が、所得税法59条1項が適用される譲渡の対象資産が株式である場合の時価の算定法を定めているため。

 

理由

以下に参考になる記事を引用する:

 

1)個人→個人 への譲渡

No.3105 譲渡所得の対象となる資産と課税方法

https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3105.htm

(一部抜粋、着色は筆者)

譲渡所得の対象となる資産とは

譲渡所得の対象となる資産には、土地、借地権、建物、株式等、 金地金、宝石、書画、骨とう、船舶、機械器具、漁業権、取引慣行のある借家権、配偶者居住権、配偶者敷地利用権、ゴルフ会員権、特許権、著作権、鉱業権、土石(砂)などが含まれます。

なお、貸付金や売掛金などの金銭債権は除かれます。

 

非上場株式の譲渡における税務上の時価の考え方(事例による整理)

https://www.tactnet.com/news/2018/No.749.html

(一部抜粋。着色と改行は筆者)

2.個人Aが個人Bへ非上場株式を譲渡するケース

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所得税法上、株式の譲渡は譲渡所得等となりますが、各種の所得の(総)収入金額とするべき金額は、所法36条1項により「その年において収入すべき金額」とされています。金銭で(譲渡の対価を)収入する場合、この「その年において収入すべき金額」とは、AとBとの間で対価として合意した金額ですから、個人間の譲渡では、所得税法上は、譲渡の対価が時価より低くても(又は著しく低くても)、その譲渡を時価譲渡に引き直されることはなく、譲渡者はその合意した対価を収入金額として譲渡所得を計算します。

ところが、相続税法の7条が、譲渡の対価が著しく低い場合は、譲受人個人Bは、譲渡者個人Aから贈与を受けたみなす旨規定しています。そこで、相続税法上の時価を対価に譲渡しておけば「著しく低い」との認定はありえませんから、相続税法上においても、Bに贈与税の課税が生じることはない、ということです。

相続税法上の時価とは、財産評価基本通達(評価通達)に則って、株式の取得者=譲受人の立場で算定されるもので、相続税法上の時価より例えば10数%程度低い対価でも、「著しく低い」とはいえないので同じです。

 

(一部抜粋。着色は筆者)

所得税法59条1項は、個人が、法人に対して資産を贈与(又は著しく低い価額の対価で譲渡)する場合などについて、時価に相当する金額でその譲渡があったものとみなす旨を定めています。つまり、その個人は時価相当の対価を収受しないにもかかわらず、時価でその資産の譲渡をしたものとして譲渡所得等が計算されます。そして、同法基本通達(以下「所基通」)59-6が、所得税法59条1項が適用される譲渡の対象資産が株式である場合の時価の算定法を定めています。

 

G-GOV 法令検索 所得税

(贈与等の場合の譲渡所得等の特例)

第五十九条 次に掲げる事由により居住者の有する山林(事業所得の基因となるものを除く。)又は譲渡所得の基因となる資産の移転があつた場合には、その者の山林所得の金額、譲渡所得の金額又は雑所得の金額の計算については、その事由が生じた時に、その時における価額に相当する金額により、これらの資産の譲渡があつたものとみなす。

一 贈与(法人に対するものに限る。)又は相続(限定承認に係るものに限る。)若しくは遺贈(法人に対するもの及び個人に対する包括遺贈のうち限定承認に係るものに限る。)
二 著しく低い価額の対価として政令で定める額による譲渡(法人に対するものに限る。)
2 居住者が前項に規定する資産を個人に対し同項第二号に規定する対価の額により譲渡した場合において、当該対価の額が当該資産の譲渡に係る山林所得の金額、譲渡所得の金額又は雑所得の金額の計算上控除する必要経費又は取得費及び譲渡に要した費用の額の合計額に満たないときは、その不足額は、その山林所得の金額、譲渡所得の金額又は雑所得の金額の計算上、なかつたものとみなす。

資産課税課情報 第22号 令和2年9月30日 国税庁資産課税課

「『所得税基本通達の制定について』の一部改正について(法令解釈通達)」の趣旨説明(情報)

https://www.nta.go.jp/law/joho-zeikaishaku/shotoku/joto-sanrin/200930/200930.pdf

(一部抜粋。着色は筆者)
《説 明》
1 所得税法第59条第1項では、「贈与(法人に対するものに限る。)、相続(限定承認に係るものに限
る。)若しくは遺贈(法人に対するもの及び個人に対する包括遺贈のうち限定承認に係るものに限
る。)又は著しく低い価額の対価による譲渡(法人に対するものに限る。)により居住者の有する譲
渡所得の基因となる資産等の移転があった場合、その者の譲渡所得等の金額の計算については、そ
の事由が生じた時に、その時における価額に相当する金額により、その資産の譲渡があったものと
みなす。」こととされている。

補足

結果、相手が個人だろうが法人だろうが、個人からの株式譲渡に係る譲渡費用(評価額)は、財産評価基本通達に基づき計算することになる。